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届く言葉を探した1│2025年度受講生体験記

2026.3.15

那須 祐介│2025年度 選科B(サイエンスライティング)
宇宙航空研究開発機構(JAXA)宇宙科学研究所(ISAS)

CoSTEPを受講したきっかけ

私は普段、JAXA宇宙科学研究所(ISAS)で、宇宙科学を社会に伝える広報に携わっています。宇宙科学の広報は、成果を「正確に」伝えるだけでは足りません。宇宙物理は「遠い・難しい」と感じられやすく、丁寧に説明したつもりが、かえって「自分には無理」という感覚を強めてしまうこともあります。分かりやすさのために比喩を使えば、今度は正確さとのジレンマが生まれる。受け手の前提や理解の速度を想像し、言葉を選ぶ判断を体系的に学び直したくて、CoSTEPを受講しました。

書いて、読まれて、磨かれた3日間

集中演習で印象的だったのは、文章を書く前に「誰に向けて書くのか」を問い直したことです。課題の読者は「高校生」でしたが、私たちが思い浮かべる高校生像は人によって違います。班で情報を集め、想定読者を言葉にして共有する作業そのものが、書き始める前の大事な準備でした。ライティング演習では、伝えるとは情報を増やすことだけではなく、相手を観察して言語化し、本質を残して構成することでもあると体感しました。

また、繰り返されたピアレビューでは、書き手として打ちのめされつつ、読み手としても「どこで引っかかったのか」を言葉にする難しさを味わいました。原稿をよくするだけでなく、自分の思い込みや説明の癖に気づく場でもありました。その経験は「書く」を多面的に捉え直す機会となり、文理も職種も違う仲間の視点に助けられました。

CoSTEPから見えたこと

集中演習や講義を通して、コミュニケーションでは相手を具体的に考える大切さを実感しました。また、伝えることを、送り手の「ひとりで完結する作業」ではなく、「他者の視点で鍛えられる対話」として捉えられるようになりました。特に「難しい」と受け取られやすい宇宙物理では、結論だけを急ぐと、受け手は「で、それで?」で止まってしまう。だからこそ、何がどう分かったかを、相手の知識に合わせて説明する必要があります。知識を一方的に“流し込む”のではなく、読み手が理解に近づける足場を用意すること。伝える相手を具体化し、言葉の精度を上げ、問いの立て方や構成から組み替える――その姿勢は、自分の基礎になっています。

これから受講する方へ

CoSTEPは、最初からうまくできる人だけの場ではありません。むしろ、「どうすれば伝わるのか」で悩んでいる人が、座学と実践を行き来しながら、同じ志を持つ仲間と対話し、自分の“思考の筋肉”を鍛えていける場だと思います。CoSTEPでの学びは、技術だけではなく、「誰に、何を、なぜ、どう届けるか」を問い続けるための土台でした。もし「科学技術コミュニケーションが自分にできるだろうか」と迷っているなら、その迷い自体がCoSTEPで学ぶ出発点になると思います。CoSTEPは、迷いを消してから行く場所ではなく、迷いを持ったままでも、問いや言葉の輪郭が少しずつ見えてくる場所です。相手に届く形へ問いや言葉を組み替える力は、分野や職種を問わず役立つはずです。まずは科学技術コミュニケーションの入り口に立ってみてください。