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第一話 光を消して、星を見よう

2017.9.19

この企画は、CoSTEPで科学技術コミュニケーションの表現を教えている、アーティストの朴さんが科学な光を探すために北大を旅するドキュメンタリーです。CoSTEPに来るまで、科学にまったく興味がなかった朴さん。さてさて、アートは科学と仲良くなれるかな?

第一話 光を消して、星を見よう

光を探る旅の始まりは、光を消す研究をしている、村上尚史さん(工学研究院 応用物理学部門 光波動量子物理工学分野)から始まります。いきなりの変化球です。

村上さんの研究は光を消すことです。光を消すと何が分かるのでしょう。村上さんは、太陽系以外の惑星の弱い光を観測するために、まず恒星の強い光を消す研究をしています。そもそも、なぜ惑星の光を観測する必要があるのでしょう。太陽のような明るい恒星は非常に高温なガスの塊、とてもじゃないけど生命は生きていけません。しかし、そのような強い光を放つ恒星の周りには、地球のように岩石で出来ていて、生命がいる可能性がある「岩石惑星」がたくさんあると考えられています。よその恒星を周る地球に似た惑星を探すために、朴さん曰く「地味な子にスポットライトを当てる」研究が進められているのです。

強い光と弱い光を同時に観測し、強い光だけを取り除くために、村上さんはいくつかの方法で強い光を消す観測方法を研究しています。

一つ目は、偏光という光の特徴を用いた観測方法です。光はいろいろな方向に振動する波ですが、偏光板という板を通すことで、一つの方向にのみに振動する光を取り出すことができます。偏光板と特殊なプリズムを組み合わせることで、明るい恒星の光を二つに分け、さらにその光の波が互いに逆方向に波打つように操作します。これにより、打ち消し合う干渉という現象が起き、光が消えます。恒星の光をこの現象によって取り除くことで、惑星の光だけを見ようとするのが一つ目の手法です。

二つ目は、光渦を使った手法です。波の面がらせん状である特殊な光(光渦といいます)を用いると、渦の中心が暗く、その周りが明るいドーナツ状の光を作り出すことができます。天体からの光に対して渦を発生させるフィルターを望遠鏡に取り付けることで、中心にある恒星の光を除去して、周りの惑星の光だけを取り出すことができます。

最後の方法は、直接打ち消し合う干渉を生み出すため、恒星の像を8つの領域に分けて偏光を操作するフィルターを用い、隣り合う光同士を干渉によって打ち消すという手法です。一つ目の手法と同じように、隣同士の光の波が互いに逆方向に波打つように操作することで、打ち消し合う干渉が起こり、恒星の光が相殺されます。

さて、今のところどの方法が有力なのでしょうか?その質問は難しいですねー。どの方法にも愛着があって…と、親心ならぬ開発者心を覗かせる村上さん。少し酷な質問だったようです。

ところで、このような工夫をして惑星の光を直接観測することで、何が明らかになるのでしょうか。惑星の光は恒星の光を反射したものです。光は反射する物質などによって偏光を変えるといわれています。届いた光の偏光を調べることによって、惑星の大気や表面の様子を予測できる可能性があるそうです。また光の色(波長)を調べるというのも惑星の状態を調べる重要な手掛かりです。例えば、生命の存在を示す有力な指標の一つとして、酸素が注目されています。もし大気に酸素が含まれているとすると、ある色の成分だけ暗くなるということが分かっています。そのため観測した光の色の成分を調べることで、生命の痕跡が見つかるかもしれないそうです。

光は波であるということは、高校の物理で習う現象です。そのような物理現象を応用し、宇宙に生命を見つける研究が進んでいるなんて!命の情報をもった光の波が、地球に届くその日まで、天文学者は光を消し続けるのです。

<まだまだ見えないスケッチ> 01

PRISM STONEとも呼ばれるカルサイト(calcite)。石を通して見ると絵や文字などが二重に見える複屈折という性質を持っています。石本来がもつ美しさだけでなく、石を通して見ると髪の毛にも一つの「リズム」が生まれる瞬間を捉えました。