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26 三省堂サイエンスカフェ「先端医療はどこへ向かうのか」を開催

2018.2.20

天野麻穂(2017年度 研修科/北海道大学URAステーション・URA)

2018年2月9日(日)、第26回三省堂サイエンスカフェ in 札幌 CoSTEPシリーズ「先端医療はどこへ向かうのか~センスオブワンダーとセンスオブエシックスを問う~」を三省堂書店札幌店BOOKS&CAFE(UCC)にて開催しました。

ゲストは、脳神経外科医で北海道大学病院長の寳金清博さん。最先端の再生医療の治験を推進し、世界的にも注目を集めています。進行役は、CoSTEPの川本思心准教授が務めました。定員30名は、事前登録受付開始後ほどなく満席となり、当日も店外からの立ち見がでるほどの大盛況でした。

脳動脈瘤手術の動画を背景に、今回のカフェは始まりました。

医療における正義

健康は善であるというのは、世界中で認められる共通認識です。長寿が即ち正義である、とみなされた時代もありました。そして現在は「命の価値は無限大である」というのが、医療における当然の価値観で、正義であると考えられています。しかし、生活の質をより良くし、快適に長生きしたい、との願いが高じてくると、さまざまな新しい問題が生じてきます。

エンハンスメント問題

私たちの健康増進の欲望は、やがて科学技術によって現実のものへ。スポーツ選手の筋肉増強剤の使用にとどまらず、美容形成やアンチエイジングなどは、我々にとっても身近なエンハンスメント、つまり人体や人間の能力増強に関わるトピックです。能力を増強するエンハンスメントと病気の治療は、対比され得ると同時にその境界線があいまいな概念でもあります。最近は特に、ゲノム編集技術が進歩したことにより、遺伝子レベルでのエンハンスメントも実現可能になりつつある一方で、多様性の破壊を招きかねない懸念ももたれています。

社会と科学倫理

かつて、脳にメスを入れることで、人格改造や政策的な社会改造が試みられようとしたことがありました。また、優秀な競走馬を生み出すために血統を重視する考え方がありますが、これは優生学にも繋がっています。優生学には、特定の民族や遺伝病患者の粛清を招いた歴史があります。知りたい・変えたい・制御したい、という科学の純粋な動機は、いわば欲望の自然な形でもあります。社会の基盤構造や公益制を守るため、また、今後敷かれるかもしれない、権力や人工知能による研究管理体制とのバランスをうまくとるために、社会は科学者の欲望をどのようにコントロールしていけばよいのでしょうか。

休憩時間を挟んだ後の対話コーナーでは、高校生からシニア層に至るまで、多くの参加者から質問が寄せられました。寳金さんは、自身の率直な思いを交えながら、ひとつひとつに丁寧に答えていきました。冒頭、寳金さんが言っていたように、すぐに回答は出せないけれども、問題提起を通して皆で考え、議論を深める時間となりました。

(会場からあつまった質問に答える寳金さん)

連勝記録で話題を呼んだキタサンブラックは、代表的名馬であるハイペリオンやナスルーラとは異なる血統から誕生しました。DNAを超える多様性の中に、新しい機能は生まれるのです。病気の原因になる遺伝子は、人間にとって本当に不必要なのか。多様性を担保すれば、遺伝子に介入するようなエンハンスメントも認められるのか。遺伝子への介入と、精神への介入。今回、寳金さんにお話し頂いた脳外科医の光と蔭は、とてもコントラストが強いものでした。これからも、先端医療をめぐる動きに注目しながら、われわれ一人一人が自分ごととして、この問題を考えていけたら、と感じました。

来場者アンケートの結果から

「あなたは、専門家には今後どのように、生命科学にまつわる問題に向き合ってほしいと思いましたか」という来場者アンケートには、様々な意見が寄せられました。以下に一部ご紹介します。

  • 多くの専門家が多方面から意見しながら進めてほしい
  • 社会へのリスクも考えつつ、人間に利益が生まれるようにしてほしい
  • 特定のポイントに強いのが専門家だとは思いますが、そこに一切知識のない人にもわかりやすく話せる態度でいてほしい
  • 今いる人だけでなくその後との世代への影響を長い目でみて考えてほしい

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新聞に掲載されました

平成30年2月16日(金)の北海道医療新聞に、「医療倫理 市民と語る サイエンス・カフェ 寳金北大病院長」 と題して、今回のカフェの概要と三省堂サイエンスカフェが写真付きで紹介されました。

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本イベントは三省堂書店 札幌店主催、北海道大学CoSTEP・日本学術会議北海道地区会議共催で実施しました。また、科学研究費補助金(基盤C)「デュアルユース概念の科学技術社会論的検討」(課題番号:16K01157 代表:川本思心)の支援を受けました。