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28 三省堂サイエンスカフェin札幌「毒を解く」を開催

2018.6.7

2018年5月29日(火)、第28回三省堂サイエンスカフェ in 札幌 CoSTEPシリーズ15「毒を解く~動物が化学物質を代謝するしくみ~」を三省堂書店札幌店BOOKS&CAFE(UCC)にて開催しました。

ゲストは、獣医師で北海道大学大学院獣医学研究院毒性学教室の石塚真由美さんと中田北斗さん。お二人が所属する毒性学教室では、環境や野生動物、家畜やヒトの体に蓄積していく化学物質の動態を専門に、主にアフリカをフィールドとして研究をすすめています。進行役は、CoSTEPの池田貴子が務めました。

(石塚真由美さん/北海道大学大学院獣医学研究院 教授)

自然界には毒がいっぱい

初めに石塚さんから、毒にはどのようなものがあるのか、いろいろな動物が持っている自然毒の事例を交えてご紹介いただきました。フグ毒のように私たちにとってなじみの深いものから、毒のイメージのない鳥類や哺乳類まで、自然界には毒を利用して身を守る生物が意外とたくさんいるのです。化学物質を代謝する解毒というシステムは、私たち生物が身を守るための大切な仕組みなのです。

そもそも毒とは?

毒の正体。それは化学物質です。青酸カリやヒ素のようないわゆる「毒」だけでなく、もっと身近な、例えば通常口にする食物もすべて化学物質であり、場合によって毒になりうるのです。例えば、コーヒー。コーヒーは1000種以上の化学物質で構成されており、なかには発がん性のある物質も含まれています。「コーヒー片手に」がキャッチコピーのサイエンスカフェだけに、少々ショックなお話です。

毒の効き目は程度問題

ですが実際には、コーヒーが原因でがんを発症することはごくごく稀です。体の代謝能力を超えて摂取しないと、毒性を発揮しないためです。つまり、飲みすぎなければなんの問題もありません。裏を返すと、たとえ青酸カリでも、仮に瞬時に代謝できてしまう体質の人がいたとしたら毒にはならないのだそうです。実際、殺鼠剤が効かなくなったクマネズミは、普通のクマネズミよりも速やかに殺鼠剤を体外に排泄することがわかっています。

(定員の30名を超える応募があり、会場はとても賑やか)

種間差が大きい

同じ化学物質を摂取しても、動物の種類によって毒になったり薬になったりすることがあります。例えば、チョコレートに含まれるテオブロミンは、ヒトが摂取するとストレス軽減効果を発揮しますが、イヌが摂取すると中毒を起こします。イヌのテオブロミン代謝速度が、人の何倍も遅いことが理由です。また、そもそも動物種によってタンパク質の構造が違うために、その化学物質が毒性を発揮するかしないかが決まる場合もあります。冒頭の自然毒は、このケースがほとんどのようです。

個体差も大きい

化学物質の毒性発揮には種間差が大きいことがわかりました。では個体差、つまり同じ動物でも個体によって代謝能力に差はないのでしょうか?今回は、アルコールの代謝能力の個体差について、我々ヒトで実験をしてみました。お酒が飲めるか飲めないかを判定できるアルコールパッチテストです。石塚さんに代わり、中田さんがヒトのアルコールの代謝システムについて解説してくださいます。

(中田北斗さん/北海道大学大学院獣医学研究院毒性学教室 学術研究員)

解説の間、参加者の皆さんは腕の内側の柔らかい部分に70%エタノールを沁み込ませたコットンを貼って、経過を観察しました。ヒトのアルコール代謝には2段階があり、各段階でのアルコール脱水素酵素とアルデヒド脱水素酵素の働き具合によって、代謝能力が決まります。すぐに皮膚が赤くなった人(お酒が飲めないタイプ)、数分後に赤くなった人(そこそこ飲めるが強くはないタイプ)、全く赤くならなかった人(酒豪)に分かれました。心当たりのある方、意外な結果が出た方、将来飲めるタイプ!と喜ぶ未成年の方、と会場は大いに盛り上がりました。

環境に蓄積する意外な化学物質

最後に、環境中に意外なかたちで化学物質が蓄積していく問題について、ふたたび石塚さんからお話いただきました。代謝された化学物質は、さいご体から排泄されます。それは薬も同じで、私たち人間が飲んだ薬の代謝産物が尿として排泄され、下水処理しきれなかったものが河川で検出されることがあるのだそうです。思いもよらないところで水質汚染を引き起こしたり、薬剤耐性をもった生物を生む可能性があることを知り、会場からは驚きの声が上がりました。


(会場からは質問が多くあがり、活発な交流の場となった)

今回のカフェでは、動物の体が生存のために得た解毒という能力についてワークショップを通して体感できたとともに、科学技術を利用することで生じる弊害について考えるきっかけとなりました。

本イベントは三省堂書店 札幌店主催、北海道大学CoSTEP・日本学術会議北海道地区会議共催で実施しました。