日本の課題を解く新たな道筋を北海道から
市民に科学技術に関する知識を与え、関心を喚起するという科学技術理解増進(Public Understanding of Science)の活動が、我が国においては戦後間もないころから行われてきています。
一方欧米では21世紀に入り、市民の科学技術への意識、参加を高めることが重要であることが認識され始めました。科学技術やそれに携わる研究者・技術者への不信感が生まれ、そこから、科学技術への公衆の関与(Public Engagement in Science and Technology)、科学に対する公衆の意識(Public Awareness of Science)を高めるための活動として、科学技術コミュニケーションが注目されるようになりました。従来の、科学者から門外漢への一方的な解説ではなく、互いの考え方や理解力を勘案したコミュニケーションを促進することにより、科学技術が一般社会に自然に浸透していくことを目指す活動です。
こういった流れの中で、CoSTEPの活動は注目に値します。さまざまな背景を持つ人たちを、聞く側からファシリテーターへと演じる側にまでに引き上げ、科学技術について、もっと自由に、よりオープンに語り合う場を創り出すことで、関心を持つ人たちのすそ野を、札幌を中心に広げてきています。
CoSTEPが始まって初めての卒業生を出したころ函館では、産学官民連携組織「サイエンス・サポート函館」の活動が始まりました。各組織の特色を活かした社会連携活動で、「科学は楽しい」という入口から「科学と社会の関係」「社会の未来」を考えるようになることを目指しています。
思想家であるジャン=ジャック・ルソーは、その演劇論の中で、演劇に代わるべき市民にふさわしい催しについて、観衆を見せること、彼ら自身を登場人物にすること、みんなが顔を見せ合うこと、こうすることで、すべての人がいっそう強く結ばれると述べています。
この言葉は250余年の時を超え、CoSTEPやサイエンス・サポート函館の活動に生きています。多様な背景を持つ市民による、それぞれの専門性を活かした連携活動が広がってきています。市民参加を強く意識した、生涯にわたる長期的な学習環境と社会的ネットワークの形成が、人材育成や文化振興につながっていきます。
奇しくもCoSTEPとサイエンス・サポート函館の代表者らは、平成26年度文部科学大臣表彰科学技術賞(理解増進部門)を同時に受賞しました。いま、札幌や函館で広がりつつある科学技術コミュニケーション活動のあり方は、日本が抱える課題を解決する新たな道筋を北海道から提供しています。