みなさんの参加をお待ちしています
松王 政浩
北海道大学 大学院教育推進機構
オープンエデュケーションセンター センター長
科学技術コミュニケーションは、もはや社会生活の一部となりつつあります。背景には、地球温暖化や原発事故、あるいはゲノム編集や人工知能利用の拡大など、社会生活に直結する科学・技術問題が次々に持ち上がってきたことがあります。社会の中でこうした問題を議論する必要があることを、いまや多くの人が実感しているでしょう。昨今の新型コロナウイルス感染症対策が、きわめて大きな科学技術コミュニケーション的課題であることは言うまでもありません。
このウェブサイトを開いたみなさんも、すでに、科学技術コミュニケーションについて色々な思いを持たれていることでしょう。大学院生の方で、自分の研究成果について社会にきちんと説明する必要性を感じつつ、それができずに葛藤を抱えている方がいるかもしれません。あるいは、科学技術の第一線で活躍されていて、すでにコミュニケーションを実践しているが、その方法に不安や疑問を感じているという方がいるかもしれません。あるいは、科学技術を専門としない方で、自分のコミュニケーション能力を活かして、科学技術コミュニケーションに貢献できるのではないか、と期待されている方がいるかもしれません。CoSTEPは、そのようなみなさんの思いに応えるべく、みなさんに科学技術コミュニケーションの学習、実践、相互研鑽の機会を提供するプログラムです。
CoSTEPはもともと2005年にJSTの新興調整費でスタートしたプロジェクトですが、現在では北海道大学高等教育推進機構にあるオープンエデュケーションセンター(OEC)の一部門として、eラーニング部門とともに、北大における教育、および北大発の情報発信を支える組織として活動しています。OECは文字通り、オープン教材を広く学内外に配信して、教育の質向上と学習機会の多様化を目的とする組織であり、CoSTEPは科学技術コミュニケーションを通してそうした目的の実現を目指しています。CoSTEPの15年にわたる活動によって蓄積された知識、および活動を通して築かれてきた幅広い人的ネットワークは、きっと新たに参加されるみなさんにとって、この上ない刺激となり、また今後の人生の大きな財産になることと思います。多くのみなさんのご参加を、心よりお待ちしてします。
松王 政浩(まつおう・まさひろ)
理学院 自然史科学専攻 科学コミュニケーション講座 教授
博士(文学)。1964年生まれ。リスク予測に関わる科学の確からしさなど、社会的関心の高い科学問題を科学哲学の視点から(モデル論、「科学と価値」論、確率統計の哲学などを下敷きに)捉えることに関心をもっています。
終わらない科学技術コミュニケーションを
奥本素子
北海道大学 大学院教育推進機構
オープンエデュケーションセンター CoSTEP部門長
科学技術コミュニケーションには多くの期待が寄せられています。科学技術コミュニケーションを通して、科学に対する興味を高められるのではないか、科学者に対する不信感をぬぐえるのではないか、大きな事故や災害の際に適切な情報発信が可能になるのではないか、など。
期待を裏切るようですが、科学技術コミュニケーションはそのような期待に即時に広範囲にこたえることはできません。人が持つ興味、期待、疑問、不信感、不安といった感情は、ひとつの情報、ひとつの体験などで簡単に動くものではありません。例えば、地域の信頼感が毎日おはようと声掛けし合うことで生まれるように、科学技術コミュニケーションもこつこつと積み重ねていくコミュニケーションです。同じ本を何度も読むように、友達と同じ話を何度もするように、本来コミュニケーションとは解決の手段ではなくそれ自体がとてもおもしろいものなのです。課題解決のためのコミュニケーションではなく、飽きずにコミュニケーションを取り続けるために、CoSTEPの科学技術コミュニケーションは多様な活動を行っています。
わだかまりが解けた後でも、疑問が解決した後でも、CoSTEPの科学技術コミュニケーションは続きます。そしてわだかまりが解けなくても、科学技術に興味が持てなくても、CoSTEPは科学技術コミュニケーションの扉を開くようにしています。いろんな人がいろんな考えを持ち、時々交わるおもしろさを大切に、私たちは今日も終わらないコミュニケーションを続けています。
奥本素子(おくもと・もとこ)
CoSTEP 准教授
博士(学術)。1980年生まれ。専門は教育工学、学習科学、科学教育。博物館や科学技術コミュニケーションをテーマに、日常の中から学ぶインフォーマルラーニングを研究している。