2021年11月6日(土)-11月7日(日)にかけて、札幌文化芸術交流センターSCARTS においてサウンドアーティストの大和田俊さん、そして研究者の石井一英さん(北海道大学大学院 工学研究院 教授)をお招きし、「地球を片付ける」という二日間のワークショップを開催しました。本企画では大和田さんの作品“Unearth”を解体し、片付けるという行為を通じて、現代社会の直面する廃棄物問題について、参加者の高校生と共に考えました。
このワークショップはSCARTS(札幌市文化芸術交流センター)と包括協定の枠組で実施されている、中高生向けのテクノロジーとアートに触れる++A&T(プラプラット)のプロジェクトとの連携で行われました。なかでも、本イベントの二日目の企画・運営は、2021年度 ソーシャルデザイン実習受講生(大平・木村・坂本・渡邉)を中心として、行いました。
さらに、本ワークショップを通じて具現化した「片付け」の方法を通じ、大和田さんが3ヶ月の間で実行した内容を、成果展として2022年3月頃にSCARTSにて展示いたします。お楽しみに!
渡邉智久(2021年度 本科SD)
1日目:《unearth》完全分解プロジェクト
初日のプログラムは大和田さんの作品、”Unearth”を鑑賞するところから始まりました。本作品は大和田さんが世界中から集めてきた多様な地域と年代の石灰岩を配置した場に、点滴袋から酸の水溶液を垂らし、石が溶解する過程で発生する二酸化炭素の微細な発泡を集音・増幅、そしてスピーカーから流す構成となっています。
ただし、最初の鑑賞時には参加者はこのような作品の事前知識を一切与えられず、自由な鑑賞を、自身の目や耳をはじめとした五感のみを駆使し、行いました。真っ黒いステージの上に配置された石、上空に吊り下げられたビビッドイエローの点滴袋、そして周囲に配置されたマイクは一見自然物と人工物のコントラストを象徴する視覚的要素の強い作品のように思えます。しかし、マイクから伸びるコードを辿り、壁に取り付けられたアノニマスなスピーカーに耳を近づけると、そこから微かに雨音のような発泡音が流れていることに気づきます。作品を「見よう」とするとその音は微かすぎて聴こえず、スピーカーに耳を傾け「聴こう」とすると本作品を直視できない、といったように視覚的情報と聴覚的情報の知覚が互いから切り離される奇妙な現象を体験しました。
その後、大和田さん本人による解説を通じて、本作品に使用された石はフズリナという数億年前の生物の化石から構成されており、当時フズリナが炭素化合物として自身の身体に固定した海中の二酸化炭素を、酸水溶液を用いて溶かすことで、今、改めて大気へと放出していることを知りました。このように、本来知覚できない地球規模の時間の流れや空間の広がりを、様々な五感を通じて、感覚していることを認識しました。
鑑賞を通じ作品への理解を深めた初日の午後は、本ワークショップのテーマである「片付ける」という行為に取り掛かりました。午前中に鑑賞した”Unearth”を「片付ける」方法を考え、実行するにはそもそも「片付ける」とはどういう行為なのかという問いに対して、片付ける対象・状態や片付けの程度などから改めて見直すことが要求されました。「片付ける」前のステップとして、作品の「分解」という行為に関しても、作品を作品たらしめている要素に対して多様な着眼点と、その分解へのアプローチが参加者から提案されました。中でも、発泡音を作品の要素と見立て、そもそも発泡音を発生させていた溶解現象の除去を目的とした、点滴内の酸溶液の回収や石の位置の移動の他に、集音媒体や伝達媒体、増幅媒体である音響装置の撤去、さらには空間に全く異質な音を導入し、作品の音をかき消す目的として爆音でエレクトロダンスミュージック(EDM)を流すなど、多様な手法が提案、実行されました。
作品分解作業はその開始時、完成された状態で参加者の前に提示されていた作品の「破壊」という印象が強く、はたして自分が行なっている行為は「片付け」なのか、内心疑問を感じながら行なっていました。しかし、興味深いことに、「作品」を「作品でなく」することに当初勤しんでいた参加者達は、いつの間にか分解後の要素を並べるなどし、自然と各アプローチの痕跡が垣間見える形へと整える方向へとシフトしていました。
このように、初日の作品鑑賞、そしてその分解を通じて参加者は「片付ける」という行為の対象やその手法に関して根本的な見直しを行いました。そして、次に分解した各々の要素をどのように・どこまで「片付ける」のかを考えながら家路につきました。
2日目:「片付ける」再考
初日の作品分解を通じて、「片付ける」対象である作品の様々な要素について熟考したところで、二日目のワークショップではそれらの要素をどのように、そして、どこまで「片付ける」のかについて、向き合いました。
そのためにまず、人々が身近なものをどのようにして「片付けて」いるのか、ということを確認し、作品の片付け方のヒントへとすることを目的に、アイスブレイクセッションを行いました。具体的には、参加者らは互いのスマートフォンのホーム画面を共有し、アプリの配置や背景画面に関する自分なりのルールや意味の説明を行いました。現代人にとって必要不可欠なデバイスとなったスマートフォンには、その人が必要とする機能やアプリの種類のみならず、その配置や整理の方法においても個性が表れていました。結果として、階層的な整理や通知の多いアプリの消去、極めてランダムな配置や逆に使用頻度に応じた位置の固定まで、ホーム画面の整理方法は十人十色であり、「片付け」という行為には多様な解があることを認識しました。
次に、「片付け」の対象やその方法をスマートフォンなどの身近な例から、より広い社会へと目を向けるべく、北海道大学大学院環境工学院の石井一英先生によるレクチャーを受けました。
石井先生は講義のなかで、「もの」と「ごみ」、リユースやリサイクルの関係、そして捨てることや片付ける行為を、所有や価値の概念を用いて考察しました。「ごみ」と分類される不要物を「片付ける」ことによって資源としての可能性を生み出すことが可能であり、同時に、「片付ける」という行為を再使用へのハードルを下げる行為として捉えることができます。さらに、石井先生は「ごみ」という概念を時間的・空間的に拡張することで、私たちの身の回りのあらゆる物質がいつかの未来の「ごみ」として見えてくることを示しました。これら「将来のごみ」を見出す視点を、石井先生は「廃棄物めがね」と称し、最終的には廃棄物(=ごみ)が死語となるような循環型社会を目指すことの重要性を説きました。循環型社会の実現においても、廃棄物となるような物をそもそも作らないことと同程度、「片付ける」という行為を通じて、その瞬間、その場において不要なものを別の場や別の時間で改めて使用するためのハードルを下げることの重要性に気づかされます。
石井先生の講義を通じて「片付ける」という行為を社会や地球規模で見つめ直したところで、午後は、「片付け」の方法についてのワークショップを、CoSTEPソーシャルデザイン実習受講生を中心に行いました。このワークショップでは、「片付け」の方法や対象に関して、CoSTEP受講生が各々の専門分野に関連する視点からまとめた(占い師)ブースを参加者の高校生が巡り、その後作品を片付ける手法のアイデアに生かすことを目標としました。受講生4名による占いブースは、二酸化炭素検知器を用いて炭素循環について説明するブースやLEGOを用いて化学における物質変化についてブースから、離婚や終活など人生の「片付け」としてカードゲームを通じて解説するブースや、南極の氷や自分の乳歯をメルカリに出品してものの価値の再評価を図るブースなど、内容、アプローチ共に三者三様なものとなりました。
最後に、二日間のワークショップの内容を踏まえて、参加者がそれぞれ提案する”Unearth”を地球規模で片付ける方法の発表会を行いました。物質的・経済的な循環を意識した片付け方から本ワークショップの情報の整理に着目した提案、作品の全体や要素の所有権に目を向けたお地蔵さん作成プロジェクトなど、オリジナリティ溢れる提案がされました。
現在、大和田さんはこの二日間のワークショップの提案をもとに、”Unearth”の「片付け」を絶賛実行中です。参加者の具体的な提案内容と併せた大和田さんの「片付け」の実行記録を3月SCARTS開催の成果展にてお楽しみにどうぞ!
あとがき
今回の二日間のワークショップは我々が普段の生活で何気なく行っている「片付け」という行為に対して対象・手法・程度・意義などあらゆる角度から問い直す機会となりました。そもそも、片付けという行為は人類特有なものなのでしょうか?また、片付けるという行為は我々にどういった意味合いをもつのでしょうか?考えれば考えるほど、問いは尽きません。このように、明確な「解」がないようなテーマだからこそ、今回のワークショップのような「問い」を大事にした科学技術コミュニケーションが重要だと感じます。皆さんも是非、「片付ける」ことを自分なりに考えてみてください。
おわりに、大和田さん、石井先生、SCARTS技術スタッフ方、そして当日参加いただいた高校生のみなさんに感謝申し上げます。