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131サイエンスカフェ札幌「採鉱学再考~1本のマイボトル教えてくれる鉱山開発のいま~」を開催しました

2023.9.29

2023年9月10日(日)に、第131回サイエンス・カフェ札幌「採鉱学再考~1本のマイボトルが教えてくれる鉱山開発のいま~」を紀伊国屋書店札幌本店 1F インナーガーデンスペースで開催しました。今回のゲスト、川村 洋平さん(北海道大学 工学研究院 教授)は、最新の科学技術を鉱山の採鉱作業に応用する、「スマートマイニング」を研究しており、国内外の鉱山現場で研究をする中で、世界各国の鉱山開発問題に触れてこられました。今回は、鉱山開発の現状と課題、更には課題解決に繋がるスマートマイニングの最新研究についてお話ししていただきました。また、来場した参加者の皆さんが、架空の鉱山開発問題について意見を交わす対話型ワークショップも同時に行いました。聞き手は坂井恭佳(CoSTEP 19期 対話の場創造実習受講生)が、対話型ワークショップの進行をその他CoSTEP 19期本科受講生が務めました。

坂井恭佳 (2023年度本科/北海道大学 農学院 修士1年)

川村洋平(かわむら・ようへい)さん / 北海道大学 大学院工学研究院 教授

この日はお天気に恵まれ、30℃近くまで気温が上がりました。登壇者やスタッフは、本イベントのアイコンにもなっている”マイボトル”で水分補給をしました。

出演者はみなマイボトルを持参しました

オープニング・クイズ

「スマホに使われている金属は何種類?」

「ステンレスのマイボトルを作るのに必要なニッケル鉱石の量はどのくらい?」

「日本の鉱石自給率は何%?」

と、身近な金属に関するクイズからスタート。身の回りに金属は沢山ありますが、金属の原料となる鉱石は、皆さんにとってあまり身近ではなかったかと思います。今回のサイエンス・カフェ札幌は、鉱山から鉱石を掘る方法について扱う「採鉱学」をテーマとして、ゲストの川村さんにお話しいただきました。

事前申し込み、当日申し込み含めて29名の方が参加してくれました

採鉱学とは?

川村さんは、「私は絶滅危惧種です。日本で採鉱学をやっている最後の一人です。」と自己紹介。現在国内で採鉱学を扱っている大学は、北大を含め4大学のみであり、川村さんの世代が、先代から採鉱学を学んだ最後の世代だそうです。1970年代ごろには日本国内で250カ所ほどの金属鉱山が稼働していましたが、2000年代にかけてほとんどが閉山しました。国内の金属資源会社は、日本で鉱石を掘るのではなく、海外から鉱石を輸入するようになりました。そのため、国内で採鉱学を学ぶ必要がなくなってしまい、採鉱学という学問分野は縮小してしまったそうです。

多くの人たちにとってあまり身近ではない採鉱学、私たちの手元にある金属はどのように採掘されているのでしょう。次に国内外の鉱山の現場に赴いてきた川村さんが、鉱山採掘の掘方について現場の話を交えて解説しました。鉱山操業は金属資源の流れにおいて”上流”であり、鉱石から金属を取り出す金属精錬が”下流”となります。鉱山を切り開いて鉱石を採り、輸送するまで、全て採鉱学が担う範囲です。まず、巨大な鉱石の塊に穴をあける穿孔作業の後、穴に設置した爆薬を爆発させる迫力満点の発破が行われます。爆発により細かくなった鉱石をトラックに積載し、鉱石を選別する工場まで輸送します。選別工程では、まず鉱石を細かく破砕、磨鉱し、比重などによって選鉱します。選ばれた均質な鉱石のみが、日本などに輸送されます。

鉱山の掘方は上流から下流にまで分かれるが、日本では下流工程のみが実施されている

私たちの知らない鉱山開発問題

ただ鉱山開発は様々な問題をはらんでいます。ただ、日本には金属鉱山がほとんどないため、その問題に気づきづらいのが現状です。しかし、日本が鉱石を輸入している海外の鉱山でも様々な問題が起こっており、それは他人事ではありません。

まず、「低濃集・深部化」という問題です。濃集とは、鉱石・鉱床にどのくらいの量・割合で含まれているかを指します。金属が多く含まれている鉱床は、これまでに人類がほとんど掘りつくしてしまい、現代においては金属が少ししか含まれていない鉱床しかありません。また、地表近くの鉱床もこれまでに掘りつくされてしまったため、現代では、更に地中深くまで掘り進めなければ金属鉱石と出会えません。低濃集・深部化により、新規に開発される鉱山の操業コストが上昇しています。深く掘るには多大なお金をかけて設備投資する必要がありますが、採れた鉱石に含まれる有用金属の量が少なければ利益が出ず、赤字となってしまいます。

加えて、鉱山開発は環境問題も引き起こす場合があります。「私は地球を掘り起こす人間なので、(地球環境にとって)敵なんですよね。しかし最近では、掘るところから環境保全を考えるようになりました。」と川村さんは語ります。脱炭素社会の実現が目指される今、蓄電池に使われるレアメタルの需要が高まっており、新規のレアメタル鉱山開発が世界中で計画されています。しかし、鉱山を開発すれば、甚大な環境破壊は免れません。鉱山周辺の森林は切り開かれ、生態系にも大きなダメージがあります。川村さんが深刻だと考えているのは、水質・土壌汚染です。鉱山から出たヒ素や重金属などは、鉱山が閉山した後も地下水に混ざり続け、環境基準を下回るまで永久に浄化処理をする必要があります。鉱山開発により、自然環境が失われると、更に環境破壊防止や脱炭素化の必要性が増し、レアメタルの需要が増える…といった負のループに陥ってしまうのです。

鉱山開発を取り巻く環境問題の負のループ

鉱山開発は、社会的問題も抱えています。近年、オーストラリアの鉱山開発をしている大企業が、オーストラリアの先住民族であるアボリジニの遺跡を、鉱山操業に伴う発破作業により破壊してしまいました。このような、開発側と先住民族や地域住民との対立は世界中で起こっています。日本ではあまり報じられない問題ですが、海外では開発企業や国に対するデモ活動などが行われ、社会的に大きな問題となっているのです。

金属を豊かに使っている私たちですが、遠くの鉱山で起こっている問題を知らないまま、あるいは目を向けようともしないまま生活してきました。本当にこれらの問題は”遠くの国”の問題なのでしょうか、”再考”してみましょう。

休憩・質問受付

10分の休憩の間、次の対話型ワークショップに向けて、イスをグループごとに円形に並べ直しました。また、受付で配布した黄色いふせんに、川村さんへの質問を記入してもらい、参加者からの質問を募集しました。

質問の書かれたふせんとそれを見て考える川村さん

対話型ワークショップ 「~あなたならどうする?藻岩山に鉱山!?~」

今回のサイエンス・カフェ札幌では、参加者の皆さまに鉱山開発問題について話し合っていただく対話型ワークショップを行いました。

まず、参加者5人と、今年度CoSTEP本科受講生が務めるファシリテーターと書記のペア、合わせて7人でグループとなり、「藻岩山にニッケルの鉱床が発見された」という架空の設定で、藻岩山での鉱山開発に賛成するか、反対するかの意見を述べてもらいました。その後、自身の意見とは無関係に、「賛成の立場」、また「反対の立場」に立ち、それぞれの意見を考えてもらいました。これらの意見は書記がスケッチブックに書き留めます。最後に、ここまでの意見交換や立場を固定した意見の出し合いを通して、最終的に自分が賛成するか、反対するかを述べてもらいました。

ワークショップの様子

話し合いの途中で、日本がニッケル鉱石を輸入できなくなる、という架空のニュースや、ニッケル産出国の南の島の住人から届いた、南の島の環境破壊の窮状を伝える架空の手紙などが紹介され、参加者は更に議論を深めました。

南の島からの手紙を読み上げるワークショップ班のメンバー

ワークショップを通じて、様々な立場、意見があり、簡単には話がまとまらない、また自分の中でも意見が決まりきらない、といった「モヤモヤ感」を感じ、鉱山開発問題を「自分事」として考えることができたのではないでしょうか。

最新技術で鉱山開発の課題解決を

最後に、川村さんの研究している最新技術が紹介されました。鉱山開発問題を解決する力を持つ、「スマートマイニング」の概念が解説されました。「スマートマイニング」とは、鉱山の現場での情報をセンサーや写真などでデータ化し、通信設備を通してで収集することで、集めたデータを基に効率的な採鉱方法を構築する、シミュレーションに活用するなど、実際の現場と情報工学を組み合わせて鉱山の生産性、安全性を高め、持続可能な鉱山開発を実現する手法です。

具体例として、鉱山の坑道内でのインターネット設備が紹介されました。この設備により、坑道内の環境に加え、作業員の健康状態をモニタリングすることができ、作業員の健康、安全が守られています。また、爆薬で鉱山を発破する際の振動の波形情報を収集することで、別の場所で発破する際の振動を予測することができます。更にその予測される振動の範囲や強さをデジタル地図上に表示することで、環境影響がどこまで出るかの確認や、振動の影響を低減するための改善などが行えます。画像診断AIを使えば、人間の目視では判断できなかった岩石の種類や崩れやすさなどを判断でき、効率的で安全な作業ができます。また、川村さんの提唱されている「スマートマイニング+(プラス)」では、カーボンニュートラルなど、環境負荷を低減することも目指しています。鉱石を輸送するトラックを電化し、リモートで操作可能にすることで、二酸化炭素の排出を抑え、効率的な操業が行えます。

スマートマイニングの一例としての無線通信技術

昨年北大工学部に設置された360°VRシアターも、スマートマイニング実装の一環です。採鉱学の人材育成において、現場の見学は重要でありながら、長時間の渡航や鉱山に入る許可の取得などのハードルにより、国内の学生にとっては見学が非常に難しくなっています。VRシアターを利用すれば、そのようなハードルなしに疑似的に現場の教育を行うことができます。(VRシアターについて詳しくはこちら https://resource-management.eng.hokudai.ac.jp/jpn/vr-theater.html )

質疑応答・閉会

会場から寄せられた質問について、川村さんが答えました。技術紹介の際に一緒に答えた質問もありました。特に、「金属のリサイクル技術」や「都市鉱山」といったトピックに参加者の興味が集まりました。川村さんは、リサイクル技術は採鉱学の範疇ではないとしながらも、リサイクル、都市鉱山は急ぎ充実させるべき方法であること、プラスチックとは違い、金属はリサイクルしても質が落ちないため半永久的に使い続けられることを話しました。しかし、それでもリサイクルされずにロストしてしまう金属を補充するために鉱山を掘り続けるしかないこと、鉱山開発を全く行わなくなると、採鉱学の技術が失われて再現できなくなってしまうこと、スマートマイニングを実現できれば持続可能な鉱山開発ができるようになること、など鉱山開発の必要性も伝えました。

最後に、川村さんから、「鉱山の問題はもはや他人事ではありません。解答はないけれど、一人ひとりが自分事として考えていくべき問題です。」とメッセージをいただきました。今回のサイエンス・カフェ札幌が、皆さんにとって、採鉱学について、鉱山開発問題について、”再考”するきっかけとなったのではないでしょうか。

ご参加いただいた皆さん、ゲストの川村さん、お手伝いいただいたCoSTEP本科受講生の皆さん、ありがとうございました!

 

当日答えられなかった質問について、川村さんに答えていただきました。
日本は、国として鉱石の輸入先に対する環境問題などへの支援は行っているのでしょうか?

鉱山の権益の率によります。100%権益で操業している鉱山の場合は相手国の環境基準に準拠するよう努力しています。

切り開いた鉱山は約何年で閉山しますか?現状、山の環境の回復を行っている鉱山はどれくらい世界でありますか?

5年から20年が平均的な鉱山寿命です。一部発展途上国以外ではほとんどの鉱山が山の環境回復に努めています。ただし、その程度の違いは大きいです。

現在日本の大学で採鉱学を研究している研究室ではどのようなテーマに取りくまれているのでしょうか?

効率・安全・環境に着目したテーマが多数あります。

北海道の鉱山はよいものがとれますか?再採鉱される時はきますか?人口も減るので、むしろちょうどよい?

結論から言うと採れます。金や石炭がその代表です。近い未来に再採鉱される計画もあります!

オーストラリアのお話しがありましたが、他の国にも行かれたことはありますか?

永住権を所有しているのはオーストラリアだけですが、行ったという程度であれば、南極大陸を除く全大陸に行ったことはあります。30カ国以上に行ったことがあります。

鉱山跡の面白い利用方法・事例がありましたら、お教えください!(公園、緑地などの例があればぜひ)

ラスベガスに代表されるようなカジノシティ、スーパーカミオカンデに代表されるような研究施設、中国の洞窟リゾートホテルが代表的な利用例です。今後、サーバーの管理施設として活用しようとも考えています。

鉱山を掘った後埋め戻したりはしないのでしょうか?/ 規模にもよると思いますが鉱山開発には、どのくらいの費用がかかるのでしょうか?そして採算はどんな感じなのでしょう。

埋め戻しをする場合もあります。これは開発する国の規制やそこに住む住民との合意により決まります。大きい鉱山の開発費用は数千億円にもなります。

ダイヤモンドは採鉱しつづけるんですか?人工でできるレアメタルとか貴金属は科学でふやせないのですか

工業に使う人工ダイヤモンドは作れますが、宝飾的価値を持ち金銭の代替となるダイヤモンドは作り出せないため、今後も管理の上で採鉱され続けます。

日本の炭鉱について追加でご説明をお願いします。

釧路コールマイン(旧太平洋炭鉱)が実験・研修鉱山として稼働しています。また、大手が手を引いた後に地元で操業している炭鉱もあります。これからは、メタンを取り出す施設やCO2を貯留する施設としても利活用が期待されています。

環境問題に採鉱学者である川村さんも関わっていかなければならないと感じるようになったとおっしゃっていました。考えが変わったキッカケは何だったのでしょうか?

地球へのファーストコンタクト部分である採鉱で環境配慮しないと“人類に明るい未来はない”という考えに至ったからです。

CoSTEP 19期 対話の場創造実習受講生:

近藤隆、坂井恭佳、佐藤聡太、鈴木真理子、藤田青空、三上敦