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133サイエンスカフェ札幌 「ChatGPT先にある世界−AIがもたらす転換期に立って」を開催しました

2024.1.5

2023年12月3日(日)14:30〜16:00、第133回サイエンス・カフェ札幌「ChatGPTの先にある世界−AIがもたらす転換期に立って」を紀伊國屋書店札幌本店にて開催しました。ゲストにAI研究者の川村秀憲さん(北海道大学大学情報科学研究院 教授)を迎え、大内田美沙紀(CoSTEP 特任助教)が聞き手役を務めました。

お話しをする川村さん(右)と聞き手の大内田(左)

今回のサイエンス・カフェ札幌は事前申込制でしたが、募集を開始して数日で定員に達し、当日は35名の方が参加しました。生成AI、ChatGPTヘの関心の高さが伺えます。なお、カフェ開催2日前の12月1日には2023年新語・流行語大賞の発表があり、「生成AI」がTop10入りを果たしました (「ChatGPT」はノミネート入り)1)

12月の寒い中、たくさんの方にお越しいただきました!
もう、「なかったこと」にすることはできない技術

本カフェの前半は川村さんが2023年10月に出した新著『ChatGPTの先に待っている世界』2)の内容に沿って進められました。川村さんは著書の中で「ChatGPTのような革新的な技術はもう『なかったこと』することは出来ない」、と繰り返し言われています。電気、自動車、インターネットのときもそうだったように、多くの期待や不安の中で、AIはこれから人々の暮らしに浸透していくことになるとカフェの中でも言われました。

会場には川村さんの新著販売コーナーも設けられました。手前の本カフェのちらしは、ChatGPTによって生成された画像をそのまま使用しています
深層学習(ディープラーニング)の登場でAIの進化が加速した

実は、AIが初めて世界に登場したのは60年以上も前のこと。何故最近になって爆発的にAIが進化したのでしょうか?この鍵を握るのが深層学習(ディープラーニング)の開発だと川村さんは言います。
ディープラーニングとは、人間の脳が情報を処理する神経回路に似たアルゴリズムで、大量のデータと計算能力を使って学習するAI技術です。画像や言語など複雑なデータを認識・処理し、人間の脳のように動作することができます。この「ディープラーニングの登場」に「ビッグデータとコンピューター計算力の向上」と「ソフトウェアのオープン開発環境」がタイミング良く揃い、今のAI発展に至ったわけです。

AIのしくみの話では、川村さんが開発したAI俳句についての紹介もありました
人間に残される仕事とは

こうして飛躍的に進化していくAIの登場に対して、世間の人々は手放しに喜べるのでしょうか?「自分の仕事が奪われるかもしれない」」、「人間の価値はどこにあるのか」など、不安や悩みを抱いている人は少なくありません。カフェの前・後半においても何度かこの話題が出ました。
「ニッチな技術や独特の感性など、わずかな人にしかできないことは、技術的にAIで代替できる可能性があってもそれを開発する経済的合理性は低い。『自分しかやっていないこと』を追求することに価値がある。」川村さんはそう言い、多様な価値観、多様な能力を持つことに意義があることを強調しました。

カフェでは参加者のAIに対する意識調査のため、「今後、自分の仕事/活動はAIに代替されるだろう」と「今後(は/も)自分はAIを使いたい」を軸にした4象限パネルにシールを貼ってもらいました。AIに関心のある方がほとんどであることから回答はほぼ右寄りの結果に
シンギュラリティの足音

さて、ChatGPTの登場で昨今よく耳にするようになった「シンギュラリティ」という言葉があります。シンギュラリティとは、AIが人間の知能と並ぶ地点(技術的特異点)のことです。AIの技術的な発展がこれからさらに加速して進んでいくということは明らかで、シンギュラリティがいつ来るかはまだ分かりませんが、「もうその足音は迫っている」と川村さんは言います。私たちは今まさにシンギュラリティの入り口に立っているのかもしれません。

ChatGPTが生成した「AI化した世界」のイメージ
AIとの「協調」ではなく「調和」を目指す

川村さんの研究室は「調和系工学研究室」という名前ですが、そこには人間とAIの関係性に対する思いが込められています。世間では「AIとの協調」がよく謳われていますが、なぜ「協調」ではなく「調和」なのでしょうか?
「協調」は、利害が対立する両者が問題解決のために妥協点を見つける意味合いがあり、人間とAIの間ではおそらく成立しない関係性だと川村さんは言います。それに対して「調和」は、バランスがとれた適切な状態です。人間はこの先の世界において、変化に抗うのではなく、新しく登場するAI技術をバランスよく取り入れて生きていくことがしなやかに生き抜く秘訣となりそうです。そうしたAIとの調和を目指して、川村さんの調和系工学研究室はAIに関するさまざまな研究を引き続き進められます。今後の成果が本当に楽しみです!

AIとの調和について語る川村さん
ChatGPTがカフェに参入!会場の反応は?

今回、新しい試みとして、カフェ後半には実際にパソコンをChatGPTに繋ぎ、読み上げソフトを通してパネルディスカッションに参加してもらいました。はじめに気の利いた挨拶を求めたところ、「知的な旅路」や「知識の火花を散らす」といった表現が使われ、あまりの自然な応答に会場からはどよめきが上がりました。

また、ChatGPTの面白い使い方の一つに「〜風」といった役割(ロール)を設定することが出来ます。今回はロールを「子ども風」に設定し、ChatGPTから川村さんに向けて子どものような純粋な口調で質問が投げかけられた際には笑いが起こりました。

カフェの最後には、AI研究者とAIとしての立場から、川村さんとChatGPTにそれぞれ「これからのAI時代を生きる人類に向けて一言」をいただきました。川村さんからは「なかったこと」にはもうできないAIの技術に対してポジティブな姿勢で受け入れ、変化に対応していこう、といったコメントがありました。一方、ChatGPTからは人間はAIと共に成長していくべきであり、AIのいいところを活用しながらも人間だけが持つ思いやりや創造性といったことを大事にしてほしい、といったコメントがあり、「ChatGPTの方が良いことを言っている」と川村さんはちょっと複雑な面持ちで本音をこぼしていました。

ChatGPTは言葉を理解して話していないと知りつつも、人間のように、もはや人間以上に質問に即座に応答するやりとりに末恐ろしさをおぼえ、川村さんが言われていた「シンギュラリティの足音」をひしひしと感じました。

AIの「A」を形作ったポーズで記念写真

今回も多くの19期CoSTEP受講生の手伝いによってカフェを実現することが出来ました。受講生の皆さん、会場や宣伝にご協力いただいた紀伊國屋書店札幌本店様、そして寒い中足を運んでいただいた参加者の皆さん、ありがとうございました!最後に、AI転換期で引っ張りだこの中時間を作っていただいた川村さんに心から御礼申し上げます。

注・参考文献

  1. 「現代用語の基礎知識」選2023ユーキャン新語・流行語大賞(2024/1/5閲覧)
  2. 川村秀憲(2023)『ChatGPTの先に待っている世界』dZERO