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ソーシャルデザイン実習が展示「ななめせんなめせん」を開催しました

2024.4.15

CoSTEP19期 ソーシャルデザイン実習班
久本空海、堀内まゆみ、柳田拓人

2024年2月9日(金)〜12日(月・祝)、大通西13丁目にある札幌市資料館のギャラリー1において、CoSTEP19期生ソーシャルデザイン実習班による展示「ななめせんなめせん」を行いました。本稿ではその様子と実施の裏側をご報告します。

今回の展示は、ちょうど雪まつりの開催期間中でもあり、またその会場から「ついでに」見に来ることが出来る会場であったため、さらには、札幌国際芸術祭(SIAF)の開催期間中でもあったことから、札幌市内はもとより、道内、道外、日本国外から、のべ642名の方にお越しいただきました。

タイトルの意味

「ななめせんなめせん」展を企画するにあたっては、いわゆる一般的な北海道のイメージとは何かを思い返すところからスタートしました。例えば、北海道は雪が多いというイメージ。たしかに、北海道で1年間に降る雪は479cmです。しかし、この値は北海道の平均値で、実際には、1348cmも降る町や、140cmしか降らない町もあります。

そこでこの企画は、いつもよりちょっと違う「ななめなめせん」で、北海道を再発見することを目指しました。そのために、かたむきや地図、境目、思い出、輪郭など、北海道に関する5つの体験を考えました。

展示のタイトル、「ななめせんなめせん」は、「斜め上(の発想)=予想を覆す、想定を逸脱する状況や発想」という意味と、「穿った見方=物事の本質を捉えようと鋭い視点で見る」という意味をかけた造語です。もちろん、韻も踏んでいます。

タイトルを決めるまで

実習班のメンバーの中に、数年前に北海道に来た人がいたり、北海道の農業に関係する研究をしている人がいたので、北海道をテーマにすることや、内容の方向性は早い段階で決まりました。ただ、むやみに「北海道」を入れたタイトルにすると、いわゆるお役所のイベントのように(つまらなそうに)思われてしまいます。

(紆余曲折と迷走に収束の兆しが見えたホワイトボード)

年末に数個の候補に絞った段階で年を越し、最終的にタイトルが決定したのが、開催の1か月前でした。ただ、「名は体を表す」と言う言葉通り、タイトルが決まったことで全体の方向性を全員が理解することが出来たように思います。

展示の様子

実習に参加した3人がそれぞれの興味や得意なことを活かして、次のような北海道に関する5つの体験を用意しました。各展示のパネルには、解説と「問い」を入れました。

おもいでふりつもる

来場者それぞれの「忘れられない雪の思い出」を集めて降り積もらせる展示です。

問い:あなたにとって「雪」とはどんな存在ですか?

もし、あなたが北海道に来たばかりの人だったら、たくさん降り積もる雪にはしゃいでいるかもしれません。もし、北海道でも雪の多い地域に生まれた人だったら、除雪の大変さにうんざりしているかもしれません。

雪がこれまで北海道の人々の生活にもたらしてきた影響は大きく、住宅も、産業も、食料も、そしてまちづくりや都市計画も、雪のある中でどうやって生活するのかを考え、さまざまな工夫が凝らされてきた結果、ここ北海道には特有の暮らし方や文化が誕生してきました。

この展示では、事前アンケートに寄せられた「忘れられない雪の思い出」を、雪のように降る様子を壁に投影しました。人々が持つ雪にまつわる数々のエピソードは、雪と接する暮らしとはどんなものなのかを、ありありと浮かび上がらせてくれました。

来場者の反応

会期中は透明フィルムを用意し、来場者にも自身の「雪の思い出」を書き込んでもらえるようにしました。北海道以外の地域から来られていた方もいたので、青森の雪、金沢の雪など、異なる雪国のエピソードも寄せられました。「こういう名もない人々のエピソードにすごく惹かれる」とじっと展示を見ていた方もいる一方で、来たばかりの時としばらく経った今では、雪の印象が違うとおっしゃる方も。

制作秘話

Word Cascadeという、ランダムな単語が画面上に降ってくるWebページに着想を得ました。雨のように直線的ではなく、雪のようにひらひらと降る様子を調整するためには、色々なパラメーターの調整が必要でした。開発に用いたパソコンと、実際の会場でのプロジェクターでも見え方が異なることもあり、最後までチューニングが難しかったです。

かたよりでかたむく

北海道といっても市町村によって「かたより」があることを、人口・漁獲量・牛飼育頭数のかたむきで表現しました。

問い:あなたのお住まいの国や街に、「かたむき」はありますか?

札幌で生まれ育った人には、よく言われる北海道のイメージ(牛がたくさんいる、いつも新鮮な魚介類を食べられる、すごく田舎……)に違和感があると思います。このイメージと実体験のギャップはどこから来るのでしょうか?

この展示では、北海道の「人口」、「牛の飼育頭数」、「漁獲量」のそれぞれの統計データを市町村でランキングして、上位から順に全体の約50%を占める範囲をプロットし、このプロットを重さに見立てたときの重心と、北海道の形の重心とのずれを「かたむき」で表現しました。

広い北海道を一概に言うことは出来ないということが、分布の「かたより」とそれにもとづく「かたむき」で感覚的にわかるようになりました。この展示を通して、ステレオタイプのように言われる地域の特徴は、必ずしもその地域の全体を表してはいないということを表現しました。

来場者の反応

「自分の今までの思い込みと可視化されたことが食い違っていて良かった」という声や、分布に関して、「漠然と全体に広がっているようにイメージしていたが、道東に宝ありと思えた」という声がありました。また、「今は札幌に住んでいるが、引退後は道東に行きたい」という方もいて、結果的に、道東のイメージ向上に繋がったのは予想外でした。

また、「問い」に対して、「大阪人なら面白いことを言えと言われることが偏り」との答えがあったり、「新潟県民は誰でもスキーをできるわけではない」と教えてくれた方がいたりして、北海道から来場者のお住まいの地域へとイメージを広げてもらえたことが印象深かったです。

今回は3種類の統計データを展示しましたが、来場者の中には、ヒグマの分布や、農作物(ジャガイモや甜菜)の分布も見て見たいという方がいました。また、展示の北海道の形状が作り出すかげの形に興味を持たれる方もいました。

制作秘話

制作で一番時間がかかったのは、北海道の形にパネルを切ることでした。地図のままでは海岸線が複雑すぎるので、切りやすさを考慮してかなり簡略化したのですが、それでも渡島半島に手こずったり、襟裳岬を切り落としそうになったりと、苦労しました。ただ、そのおかげで北海道の形にとても詳しくなれました。

りんかくをかさねる

北海道のかたちを描いてもらい、それらを重ね合わせて展示しました。

問い:あなたが描く「かたち」と、他の人によるものは、なぜ似ていたり違っているのでしょうか?

日本地図を眺めたとき、日本の最北にあり、また他の多くの都府県と異なり、陸地での県境がないため、都道府県のなかで最も見つけやすいのが北海道です。また、シルエットを見せられたら、多くの人が「これは北海道だ」と容易に認識できるのではないでしょうか。

しかし「北海道」といっても、そのイメージは、それぞれにとって大きく異なるでしょう。200万人都市札幌から、6つの国立公園までを有し、日本海・オホーツク海・太平洋という3つの海へ面するこの地は、道央、道南、道北、道東、それぞれの地域に独特の趣きがあります。

この展示では、来場者それぞれに「北海道のかたち」を描いてもらい、それらを重ね合わせて展示しました。どこから指を動かし、どのあたりを詳しく、どのあたりを省いて描いたのか。その輪郭には、それぞれの体験や思いが反映されたようです。正確さではなく、なにを表したかったのかに着目すると、様々な目線が見えてきました。

来場者の反応

どこから描き始めるか、どの部分を詳細に書くか、島は書くか。どれくらい悩むか。来場者それぞれのりんかくがありました。

道東を詳しく描かれた方は、そのあたりに強い思い入れのある同僚がいてよく話を聞くため印象に残っていたと話してくれました。また、バイクによく乗るという方は、北海道の道路に直線的なイメージがあるとのことで、北海道も直線を使ってかいてくれました。

北海道の全体をダイヤ型に描きながらも、函館(渡島半島)を忘れずに付け足していた方が多かったのが興味深かったです。小さなお子さんも来ていて、踏み台に上がって絵をかいて喜んでくれたことも印象的でした。

制作秘話

Quick, Draw!という、プレイヤーが指示されたモノを描き、それをAIが予想するというゲームに着想を得ました。今回は2台のiPadを用いて、1つを描く用、もう1つを一覧表示用にしたため、それらのデータをインターネット上で同期するための仕組みを作成しました。CoSTEP受講生にも試してもらい、直感的に操作が分かるかなどヒアリングを行いました。

あつまりでふくらむ

人口を面積で表すカルトグラムを用いて、札幌都市圏への人口集中と北海道全体の人口減少を表現しました。

問い:2034 年、2054 年、2104 年には、どのような「ふくらみ」になってほしいですか?

北海道の人口500万人超のうち約200万人、つまり40%が札幌に集中しています。北海道のわずか0.8%の面積に、その人口の半分が住んでいます。この札幌も1920年の時点では人口10万で、函館市、小樽市に次ぐ道内第3位でした。その後、1941年には20万人を超えて道内1位に、1970年には日本国内で8番目の100万人都市となり、1972年に政令指定都市へと昇格しました。

この展示では「カルトグラム」という手法を用いて、1980年から2020年の市町村人口に基づき、地図の各市町村の面積を人口の割合に応じて変化させました。また、市町村を人口規模に比例するように塗り分けました。

日本全体と同様に、北海道も人口減少に直面しています。2023年の減少幅は全国最大の4万人となりました。今後さらに、札幌都市圏への人口集中は加速していくと予想されています。それによって得られるもの、失われるものも多くあるでしょう。このような状況のなかで、人々はどのようなところに暮らすことを望むでしょうか。

来場者の反応

ふくらむ様子が可愛く面白いという声や、襟裳に住んでいるという「襟裳……小さい……」とつぶやいた方が印象的でした。旭川市の形状に着目して、「膨らんでいないV字のところは、昔合併しなかった東神楽町なんだよ」と教えてくださる方もいました。

人口比に応じて市町村が変形していく様子が、人々の持っているイメージと対応してしているところに驚いたという感想や、人口が一極集中し、そのほかは過疎化しても、人間以外にはむしろ良いのではという意見がありました。

また、「転勤で色々なところを転々とし、札幌に来て10年たつが、欠点は文化的なものだけだろう」と語る方、「昔の北海道は-20℃になることもあったが、この10年で明らかに暖かくなっていて、住み心地はよくなったが、昔の北海道を知っている身としては寂しさを覚える」とおっしゃる方がいました。

制作秘話

カルトグラムを作成するためには「QGIS」という、地理的な情報を扱うソフトウェアを使いました。パラメーターを調整し、膨らみ具合を変えた画像を用意し、それらを繋げてアニメーションにしました。カルトグラムは、元の形を知らないと、どれくらい変形したのかがわからないため、このようにアニメーションを行うことは効果的だと感じました。膨張と縮小を繰り返す様子は、心臓の鼓動を思い起こさせ、それに合うようスピードや色を調整しました。

さかいめでわかれる

動植物の生息境界を手で表現した映像により、「北」海道という見方はあくまで1つの見方にすぎないことを表現しました。

問い:もし「北」海道以外の呼び方をするとしたら、どんな言い方があると思いますか

北海道には、生物にまつわるさまざまな「ライン」があります。例えばトドマツやエゾマツなどは北海道の気候に適した、北海道特有の樹木であると言われ、そのため樺太や千島列島から見た「北限」と、本州から見た「南限」とが、北海道内及び付近には同時に存在しています。

他にも、昆虫、爬虫類と両生類、キタキツネ、ヒグマ、エゾシカなどの分布の境界線がこれまでに示されてきました。実は、北海道という土地は氷河期時代、樺太や大陸とは陸続きでしたが、一方で青森以南と接続したことはなく、それが、本州以南との生物分布の違いに現れているのだと言われています。

この展示では、さまざまな分布境界を、地形と手の動きで表現し、それを動画にしました。このような動植物たちの分布を見ていくと、「北」海道という見方は、あくまで本州から見た、たった1つの見方にすぎないことに気がつかせてくれました。

来場者の反応

北海道出身でも生物分布境界の話は知らなかったという方や、「日本列島で唯一ユーラシア大陸とつながっていた」という話を初めて聞いたという方がいました。逆に来場者の方から、植物の分布に飛地ができた理由や、ブナが北海道に来たルーツの謎などを教えていただきました。

祖母がサハリンの引き揚げ者で、その話をよくしてくれたという方、樺太に日本人が住んでいたことを全然知らなくて驚いたという関東の方、動画に出ていたシュミットライン(植物の分布の境界線)のあたりを指差し、かつて製紙工場があった話をされる方がいました。

動画の中の蝶を真似た手の動きを「イカだと思った」とおっしゃっていた方もいました。「問い」に対する回答として、新しい北海道の名前を「渡嶋」にすると書いてくれた方には、この名称が平安時代の書物に北海道の渡島半島のあたりを指す言葉として使われていたと教えてもらいました。

制作秘話

いくつかの「境目」を調査する中、生物の分布境界にもその種によってさまざまな個別要因が背景にあることを知ることができました。気温や日照時間などの気候条件、地質や高度、また氷河期の大陸接続といった多様な因果関係がわかり、同時に北海道という土地の多様性に思いを馳せることにもなりました。

まとめ

全体的な反応

札幌雪まつり開催中であり、さらに札幌国際芸術祭(SIAF)も始まっていたことから、そう言ったイベントのために来道した方が、そのついでに立ち寄ってくれたということも多かったようです。芸術祭のさまざまな展示の中で一番面白かったという方も!また、「ななめせん」というタイトルが気になって来てみたという方がいる一方、タイトルから予想された内容とは違ったという方も。

内容については、展示の順番がよかったというものや、タイトルが一番最初の展示につながっていて興味深い、というコメントをいただきました。また、北海道の捉え方が変わったというより、ある都道府県に対する想像は実情とは違うということに共感を憶えたという感想をいただきました。

アンケート結果

Q. 本日はどちらから来られましたか?

札幌市内(55%)、道内札幌市外(10%)、道外(30%)、国外(5%)

Q. 本展示を最初に知ったきっかけを1つだけ教えてください(上位4項目)。

たまたま通りかかって(64%)、知人・友人から(13%)、SNS(10%)、チラシ・ポスター(6%)

Q. ご年齢を教えてください。

ソーシャルデザイン班からの振り返り

久本空海

北海道出身の方、移住して数十年経つ方、本州から遊びに来た方、国外からの方々、… 本当に様々な方々が訪れてくれました。一般的なサイエンスイベントとはかなり違う界隈の方々と出会う機会になったと感じています。展示した作品を見てもらうこと自体よりも、それを触媒として、それらの方々と対話できたのが、私にとって一番記憶に残っています。北海道に限らず多様な事柄について、それぞれの”目線”を感じられる場だったと思います。

堀内まゆみ

私は北海道出身ですが、義務教育の中で、北海道の歴史や経緯について、詳しく習ったことはありません。私が習ってきた歴史や経緯は、主に本州の歴史や地理を軸としたものであり、自分が住んでいる土地なのに、北海道に関する情報はその中のほんのわずかです。今回の来場者の中にも、北海道出身なのに、知らなかったという方が何人かいらっしゃいました。そんな機会にもなったように思いました。

柳田拓人

「かたよりでかたむく」を制作しました。展示をちらっと見て通り過ぎようとする人に、北海道の模型をどうして傾けているのかを説明すると、みなさん、「あっ」と気づいて驚きます。このような、ただの傾いた北海道が「かたよりでかたむく」という意味を持った瞬間を何度も見ることができました。また、道内外からお越しの多くの方とお話しする中で、それぞれの地域における自分独自のストーリーをお持ちだったことがわかり、それが非常に印象的でした。