紀伊國屋書店札幌本店1階インナーガーデンにて2014年2月16日(日)、第74回サイエンス・カフェ札幌「夢の“プラ”ライフ〜二酸化炭素を資源に〜」が開催されました。
ソチオリンピックで北海道出身の葛西紀明選手が銀メダルを獲得したおめでたい日でしたが、札幌はあいにくの強風と雪。しかし60名ほどの方が会場に足を運んでくださいました。
今回のゲストは2人いらっしゃいます。北海道大学低温科学研究所教授の田中歩(あゆみ)さん(植物生理学専攻)と、同工学研究院教授の田口精一さん(環境微生物工学専攻)です。
左が田中歩さん(北大低温科学研究所) 右が田口精一さん(北大工学研究院)
「“プラ”ライフ」とは?
「夢の"プラ”“ライフ 〜二酸化炭素を資源に〜」というタイトルには、"プラ”ント(植物)と"プラ”スチックで循環型社会を実現するという夢が込められています。
植物を相手に光合成の秘密を解き明かそうとしているのが、低温研の田中歩さん。そうした基礎研究を元に、究極のエコ技術「バイオプラスチック」を開発して、持続的な社会を目指しているのが工学研究院の田口精一さんです。お二人の研究は、田中さんが基礎研究、田口さんが応用研究という役割分担で密接に結びついています。
二酸化炭素と聞くと、地球温暖化の原因という“やっかいもの”のようなイメージを持っているかもしれません。しかし見方を変えれば、二酸化炭素は大切な「資源」ともいえるのです。
光合成メカニズムを解き明かし 植物をパワーアップ!
まずは田中さんのお話からです。光合成は、二酸化炭素から糖をつくります。糖は、植物の中で色々なたんぱく質や脂肪の材料になり、体を作っています。地球上の生物は、ほぼすべて、最終的には植物が光合成によって作り出す有機物に依存しています。私たち人間も含め、二酸化炭素を資源とすることで生物の世界は成り立っているのです。
田中歩さん(北大低温科学研究所・教授)
意外と植物は、強い光は苦手だそうです。ところが田中先生によると、遺伝子工学によってアミノ酸の配列を変えることで、強い光でも光合成ができるように植物の能力を高めることが可能だそうです。また緑を長く保つ(ステイグリーン)植物を作ることで、食糧不足なども解決できるかもしれないとのことです。
田中さんたち研究者は、35億年の長い歴史の中で効率的に進化しきった光合成メカニズムを人間が変えることなんてできないと考えていたそうです。しかしよくよく調べてみると植物にも進化的な制約があったことが分かり、もうちょっと人間の役に立つ方向へ光合成を改変できるかもしれない、最近の研究でそんな可能性が出てきたのだそうです。
ファシリテーターをつとめた滝沢麻理(CoSTEP)
夢のエコ技術・バイオプラスチック
次は田口さんのお話。石油ではなく、植物や微生物からプラスチックを作り出す、バイオプラスチック技術が世界的に注目を集めています。すでに多くの企業によって車の内装、コピー機、ペットボトルなど身近な製品に加工されて身の回りにも増えてきているそうです。
植物由来のプラスチック・バイオプラスチックは、微生物によって二酸化炭素と水に分解されそのまま土に還るので、「究極のエコ」といえます。体内で消えてしまう傷口を守るシートなど、医療への活用も進んでいます。
田口精一さん(北大工学研究院・教授)
また現在、北大の農場で3mくらいの丈のジャンボススキを育てています。このススキを分解酵素を使って液体にして、微生物によって最終的には燃料や材料へと転換する研究が進んでいるそうです。
他にも田口さんはペットボトルやゴルフのティー、買い物袋など、既に実際に使われているバイオプラスチック製品をたくさん見せてくださいました。
二酸化炭素は資源にできる!
地球の長い歴史の中で、二酸化炭素は有機物へと姿を変え、我々生物の世界を作り出してきました。今では空気の中で二酸化炭素が占める割合はわずか0.03%です。しかし近年、この濃度は人間の生産活動によってどんどん増えています。
田中さんが効率的な新しい光合成システムを生み出して、二酸化炭素を植物の体内に取り込み、そうした植物をバイオプラスチック等として田口さんが活用していく。そんな連携プレーで、化石資源によって新たな二酸化炭素を排出することのない、持続可能な社会を実現できるのです。
後半は活発な質疑応答が行われ、アンケートでは、「CO2が資源であるという見方」がとても印象に残った、「CO2ががプラスチックになりまた再生できること」に驚いた、といった声が寄せられました。
北海道の豊かな自然資源を生かした最先端研究。持続的な社会システムが将来実現するかもしれないと予感させてれる素晴らしいお話でした。田中さん、田口さん、ありがとうございました。