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世界に誇る日本の建造物

2011.3.3

著者:窪田陽一・西山芳一 著

出版社:20071000

刊行年月:2007年10月

定価:2000円


 昨今は大人の社会科見学など、産業遺産や土木遺産が注目を集めたり、文化財として保存する動きも出てきたりと古い建造物にとってはうれしい時代になってきました。この本は、そんな近代化遺産や大きな建造物を見ることが好きな人には欠かせない1冊になるでしょう。

 

 

 狭い国土に山岳地形、急流のような河川に厳しい気象条件、台風の経路で地震国、このような日本が高度な発展を遂げるには、たくさんのビッグプロジェクトや建造物が必要でした。いずれも地図に載るような大きな建造物ですが、年月を経て役目を終え、いつの間にか地図から消えてしまったものもあります。そんな建造物を再び地図に載せ、新たな地図を作りたいという思いが、この本を作るきっかけです。

 

 

 収録されているのは近代から現代の日本を支える全国の500の建造物です。橋やダム、トンネル、治水、水道施設、炭鉱や鉱山といった一般的な施設のほかに、負の遺産と考えられる軍用施設も含まれていて、建設技術が社会の変化と共に発展してきたことがわかります。各建造物は特徴を現す美しい1枚の写真と、簡潔な解説で構成されています。写真は土木構造物の撮影を専門とした写真家が、解説は歴史的建造物の調査・保存にかかわってきた土木工学の研究者が担当しています。地図の出版を主とする昭文社からの発行ですので、各建造物の基礎データには緯度経度が記され、巻末には詳細な地図があって建造物の探索に役立ちそうです。

 

 

 17世紀の石見銀山から2012年開通予定の新東名高速道路の橋梁までが掲載されているため、昔はなかった斜張橋と今では造られることがないレンガのトンネルの写真が並んでいますが、まさにこれが現代日本の姿なのかもしれません。 東京の隅田川にも新旧の橋がかかっています。大正末から昭和初期に造られた橋は、新しい橋に比べると無骨で重厚ですが、たくさんのファンを引きつけます。中でも昨年70歳になった最下流の勝鬨橋は、中央が開閉橋で根強い人気があります。車の通行を止めて、40年間あいたことのない中央部分を開けたら、古い橋の魅力を再発見できるのではないでしょうか。

 

 

 建造物の中には、表紙を飾っている碓氷第三橋梁のように重要文化財に指定され、観光資源として地元自治体やボランティアによって保存されている幸せなものがある一方で、その存在すら忘れられているものもあります。新しい建造物の陰で、ひっそりと私たちの暮らしを支えていた意外なビッグプロジェクトがあるかもしれません。

 

 

 たとえば北海道であれば、ダム湖である糠平湖内にあるタウシュベツ川橋梁を訪れてみてはいかがでしょうか。タウシュベツ川橋梁は廃線になった鉄道のコンクリートアーチ橋で、ダムの水位によって姿を現したり水没したりします。浸み込んだ水の凍結融解により劣化したコンクリートの表面と、連なるアーチが中世ヨーロッパの水路橋を思わせ、人気を呼んでいます。この本の写真を担当している西山芳一さんの写真集で有名になり、JRのポスターにも使われました。

 

 

 あなたも、この1冊を携えて近くのビッグプロジェクトを見学に行ってみませんか。

 

 

高橋 麻理(2010年度CoSTEP選科生、茨城県)