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脳科学者たちが読み解く脳のしくみ―3ポンド

2011.8.10

著者:シャノン・モフェット 著

出版社:20091200

刊行年月:2009年12月

定価:2200円


3ポンド=1.4キログラム。1,000億個以上とも言われるニューロン(神経細胞)で形作られる、私たち人間の脳の重さだ。

 

 

呼吸する、動く、考える、話す。

 

泣く、笑う、怒る。

 

 

私たちの行動は、すべて、この臓器の働きにより生み出されている。性格や思考、癖、話し方など、私たちの「わたしたちらしさ」というのは、脳によって形作られるといってもいいだろう。近年、脳・神経科学の目覚しい進歩により、脳のしくみ、機能、発達などに対して、さまざまな事柄が明らかになってきている。しかし、脳はいまだに多くの謎を秘めている。この本の著者であるシャノン・モフェットも、そんな脳の謎に魅せられた一人である。

 

 

当時、医学生であった彼女は、解剖学や神経科学の講義を通じて、こう思ったという。「医学生だけに聴かせておくのはもったいない。」なぜならば、私たちが普段、漠然と思い描いているさまざまな疑問の多くは、脳・神経科学が明らかにしようとしてきたこと、しようとしていることに他ならないからである。私たちはどうやってものを覚えているの?考えるってどういうこと?五感はどのように働くの?脳・神経科学は、そんな疑問に答えや手掛かりを与えてくれる。彼女は特に興味を持った「脳とこころ」の関係に迫るべく、脳に携わる医師や研究者、さらには解離性同一性障害(かつて多重人格障害と言われた病気)の患者や哲学者といった人々にまで、多角的にインタビューを行った。そのインタビューを基に著されたのが本書なのである。

 

 

もちろん「こころとは何か」、「私とは何か」といった、人類が長年抱いてきた疑問が解明されているわけではない。脳科学の体系的な教科書的知識を得たいという読者は、散漫で物足りないという印象を受けるかもしれない。しかし、彼女自身の言葉を借りるならば、本書は言葉による脳科学研究の「ポートレート」なのである。多くの場合、私たちが脳科学について得る知識は、発見や知見といった事実と、そこから導き出される展望である。しかし、それらの研究を実際に行っている人々がどのように謎に向きあい、どのような考えのもとで研究を行っているのか、さらには彼らがどんな話し方をするのか、どんな性格をしているのかを知る機会は少ない。

 

 

そこで、彼女は研究内容・知見などの客観的事実を紹介しながら、彼女自身が見た研究者たちの姿を生き生きと描き出していく。読み手は、さまざまな人物の物語を読み進むうちに、ニューロンや無意識、脳外科学や神経倫理学(神経科学周辺の倫理問題を扱う学問)といった脳科学の驚きに満ちた世界に足を踏み入れていることに気づくだろう。

 

 

3ポンド=1.4キログラム。こころを生みだす脳の重さ。

 

この本を読み終えたとき、あなたはそれを重いと感じるだろうか、軽いと感じるだろうか。

 

 

今津杉子(2010年度CoSTEP選科生、愛知県)