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CoSTEPスタッフ奥本素子さんインタビュー

2017.5.10

2017年3月から、新たに准教授としてCoSTEPスタッフに加わった奥本素子さんにインタビューし、自身の専門や経験、科学技術への考え、CoSTEPでの意気込みなどをお聞きしました。

ミュージアムマネジメントの研究

元々は、美術館の来館者やミュージアムマネジメントの研究をしていました。日本は美術館経験が特殊です。世界的に有名な芸術家の作品を集めた展覧会には長蛇の列ができる一方、特に現代アートなど一般的な知名度の高くないものには、なかなか人が集まりません。海外から作品を借りて、一点一点保険をかけ、何億円と費用のかかる展示ばかりでは、ジリ貧になっていきます。現代アートや自分たちの持っているものを生かした形での展示を成り立たせていくことが、経営学的に大事だと思いました。その為には、有名ではない作品も楽しんでもらう必要があり、そこから美術館で作品を楽しむための支援の研究をするようになりました。

美術館での対話式鑑賞法インターンを通じて

研究のため海外に滞在していた際は、対話鑑賞法という対話をしながら作品を見ていくという研究をしていました。その研究の一環で、国立西洋美術館で対話式鑑賞法のインターンをしながら対話式の効果を検証したところ、対話式鑑賞法では一度目の鑑賞で観察力が飛躍的に向上しますが、二度目にさらに深く鑑賞しようとすると、対話だけでは解釈が深まらないという結果が明らかになりました。

インフォーマルラーニングの研究へ

そこで、人々が深く学び合うことについて研究したいと考え、日本に帰ってからは、博物館における学習研究に取り組みました。具体的には、教育工学の手法にのっとったインフォーマルラーニングの研究です。インフォーマルラーニングとは、学校や研修といった目標が定まっていて、企画・計画された学び(フォーマルラーニング)に対し、日常で自然に、もしくは偶然に学ぶ学習を指す言葉です。インフォーマルラーニングでは、どう教えるかより、どう学ぶかということを研究することが重要になってきます。大学院ではコンピューターを使った学びの研究をしていました。それは、コンピューターを用いた学びでは、教師がいないからこそ、学習者の自主性が重要になるため、学習者自身が得られる学びの知見が豊富だからです。

人の心を動かす科学技術コミュニケーション

大学院で博士の学位を取得した後、そのまま大学内にある、研究者を目指す人達に対してコミュニケーションや学びの方法などを指導する組織に採用されました。そこから科学技術コミュニケーションにも携わるようになりました。科学をどう考えたらいいのか、一般的にはカリキュラムなど明確な基準に則って考えます。しかし私は、もともと博物館での鑑賞というフワッとした分野にいましたので、心を動かすためには、見方を変えるためにはどうしたらいいかなど、人の感性のような視点を科学技術コミュニケーションにあてはめて取り組んでいます。

差の湯の会

最近は、お茶会形式で科学者と市民が対話をする科学コミュニケーションワークショップ「差の湯の会」という取り組みに力を入れています。日本の伝統的なコミュニケーションの場であるお茶会の形式を活用しつつ、科学というテーマに合わせてデザインし、その空間で科学者と市民が語り合います。そこでは、生物学や物理学などの専門的な内容を、例えばお茶室の借景などをアナロジー(例え話)として提示するなどして、理解や共感の促進をはかりました。また閉鎖空間でゆっくりと話すとはどういうことか、この場で行われた対話から明らかにしようと、いろいろな手法を使って分析を進めています。

芸術祭と日本人

私、本当に趣味がなくて。大学院で子どもを産んでそのまま大学に勤めたので、一般的なOL期間がなく、友達とダイビングに行くなどの趣味を育てる時代が無かったんです!美術館は色々行くのですが、でもそれも研究者として行っています。子どもからも不満を言われますが、本当は休日も全部美術館にいきたい。黙ってついてこいと言いたいくらいです。各地の芸術祭をまわって現代アートを見るのも好きです。一部で芸術祭は飽和状態と言われたりしはじめていますが、私は日本において美術館での鑑賞があまり根付かず、逆に芸術祭がここまで広がっているということは、日本人は芸術をこう見たかったんじゃないかと考えています。一人ひとりが経験の文脈の中で見ていくのでしょうか。旅の途中でアートを楽しむことの方がマッチしているのかもしれません。

地域の土壌に根ざしたサイエンスフェス

でも、サイエンスフェスが根付かないのは不思議です。啓蒙活動から脱却した新しい世代のサイエンスコミュニケーションが育つ必要性をとても感じています。芸術祭では「そこがどういう町で、地域の人がどういうことをしたいのか」に根ざしたアート、サイト・スペシフィックアート(その場所でしか生まれないアート)が展示されています。サイエンスも同じで、漁師町、山村など地域によって土壌が違っています。地域のローカルナレッジをちゃんと共有し、地域の気質や風土に寄り添ったイベントが重要なのではないかと考えています。ちなみに私イチオシのサイエンスフェスは、兵庫県伊丹市の「鳴く虫と郷町」です。ここでは期間中、虫にまつわるイベントが町中で開催されます。ぜひ一度行ってみてください。

CoSTEPでの意気込み

CoSTEPでは、いろんなことにチャレンジさせてもらえそうで、今からとてもワクワクしています。一方で、今まで自分がやってきた研究や実践を、CoSTEPの活動にも還元できればと考えています。特に、今年はアートと科学を連携させるプロジェクトに参画する予定です。アートは、科学研究の実用性ではなく、科学が対象とする自然の謎や不思議さを表現するのに適していると考えています。研究者が心の奥に持っている科学研究へのモチベーションをアート的表現ですくいあげ、科学の持つ感性を伝えたいと思っています。