1. 立ち上げる17. ジャーナリストの反応
「市民」という、プロフェッショナルではない人たちにもコミュニケーターとしての可能性を期待するという考えは、ジャーナリストの方々からは評価されなかった、あるいは歓迎されなかった。たとえばこんなことがあった。
CoSTEPの授業が始まってまもない 2005年の10月20日、日本科学技術ジャーナリスト会議の例会でCoSTEPの活動を紹介する機会を頂いた。まだ「実績」と言えるものは何もない段階なので、CoSTEPという教育プログラムの方針と現状を紹介することにした。
会場は、千代田区内幸町のプレスセンタービル9階、日本記者クラブ宴会場。ふだん足を踏み入れることのない界隈であり、それだけで緊張する。午後6時30分から2時間なので、近くのコンビニでおにぎりを2つ買って食べ、会場に向かった。
会場には、日本科学技術ジャーナリスト会議会長で、NHKの解説委員として知られた、あの小出 五郎 氏や、司会・進行役を務めてくださる毎日新聞科学環境部長の瀬川 至朗 氏、さらに『科学事件』(岩波新書)などでお名前を知っていた朝日新聞の柴田鉄治氏など、錚々たる方々がずらり。もう、話し始める前から喉がカラカラだ。
一通りの説明が終わったあとは、会場の方々から次々に質問を浴びせられた。そのなかで記憶に残っている質問が一つある。こんな趣旨の質問だった(と記憶している)。
「科学技術コミュニケーターなんていう訳のわからんものを養成するために、年間1億円も投入するなんてとんでもない。われわれ科学技術ジャーナリストは非常に苦しい境遇のもとで頑張っているんだから、我々がもっと活躍できるようにこそお金を使うべきではないか。科学技術コミュニケーターに、いったい何ができると思っているのか。」
これに対しどう答えたか、明確な記憶はない。が、たぶん、こんな趣旨の回答をしたと思う。
「科学技術ジャーナリストの役割を否定するつもりは毛頭ない。でも今は、既存のジャーナリズムとは別種の、コミュニケーションのチャンネルや対話の場が必要とされているのだと思う。それらを創り出していくことが、科学技術コミュニケーターの役割だ。」
この月例会のことは、日本科学技術ジャーナリスト会議の『会報』No.37(2005年12月発行)ⅹに「科学と社会をつなぐ人材養成、大学で始まる」と題して紹介されている。その最後にある次の一文は、こうしたやりとりを反映してのものだと思う。「科学コミュニケーターの可能性について杉山氏は、地域での幅広い連携や出前授業などを通して、ジャーナリズム以外の社会の要望に応えていきたいと話した。」
それから10年近くたって、ジャーナリストの方々からあのときほど厳しく詰問を受けることはなくなった。だが問い続けていく必要はあると思っている。科学技術ジャーナリストには果たしえない、科学技術コミュニケーターならではの役割とは、いったい何なのかと。