2. 挑む19. 町工場の社長
CoSTEPの代表としての業務は、町工場の社長の様なものだった。といっても、町工場の社長になったことなど、ないのだけど。総務、人事、会計、現場業務(授業)など、すべてをやらなくてはいけない。
スタッフが転出すると、代わりの人を採用しなければならない。でも町工場の社長と違って、採用者を一人で決めるわけにいかない。各種の委員会で順に承認をもらう必要がある。しかもそれらの会議は、頻繁には開催されない。夏休みにかかれば1ヶ月以上も空白がある。でも授業などCoSTEPとしての活動を止めるわけにいかない。
振興調整費で運営していたころは、年末年始に「社長業」がピークに達した。次年度の事業計画を立て、それに対応した「予算請求」をしなければならない。その締切が1月10日頃なのだ。
予算請求するには、まずもって次年度の「授業計画」が決まっていなければならない。今の年度のカリキュラムの問題点を洗い出したうえで次年度のカリキュラムを決め、講師にお招きする方々へ依頼し……、という作業を、積算に先だってしなければならない。
授業計画が決まったら、それに必要な経費を積み上げていく。人件費や旅費の計算も事細かに行なう必要がある。消耗品に至っては、一品一品を書き出す必要がある。
たとえば書籍。科学技術コミュニケーションに関連する最新情報を入手するために本を購入したいのだが、書名を一つ一つ書かなければいけない。100冊を超える本を書き出すのは、たいへんな作業だ。科研費なら、「○○関係和書(平均単価1,500円)×50冊(75,000円)」といった大括りな書き方をすればよいのだが、振興調整費ではこうした書き方が許されない。
この予算で事業を展開する年度(=来年度)に出版される本は予算に盛り込めない、という矛盾にも直面する。だって、来年度に出る本の書名など、わからないのだから。
積算の妥当性も厳しくチェックされる。本の場合は書名で判断されるから、「この本、科学技術コミュニケーションとどんな関係があるの?」と言われないか、とても心配になる。「広辞苑はだめ」なんていう話もあった。「『広辞苑』は科学技術コミュニケーター育成とは関係のない業務でも使用される、ごく一般的な書だから」というのだ。『広辞苑』が必要な「理由書」を別に提出すれば認められるのだろうが、それはそれで面倒な作業である。