2015 CoSTEP10周年
CoSTEP私史|杉山滋郎

1. 立ち上げる15.
職業というより、社会的役割

「社会人に門戸を開く」という方針をとった理由がもう一つある。それは、私が抱いていた「科学技術コミュニケーター像」と関連する。科学技術コミュニケーターは、それで給料を稼ぐことのできる職業(あるいは職種)というよりも、社会の中で果たす役割と考えたほうがよい、という考えである。

なぜそう考えたか。

まず第一に、「私は科学技術コミュニケーターです!」と言って就職できるような職が無い、という現実がある。できることといえば、研究機関や企業で広報担当者として、メディアや科学館などで職員として、あるいは研究者をしながら、といった形で科学技術コミュニケーションに携わるしかない。将来的には、「科学技術コミュニケーター」という職種が登場するかもしれないが、少なくとも現状はそうでなかった。

言い換えると、既存のさまざまな職種のなかに科学技術コミュニケーター的要素が含まれている、ということである。科学技術コミュニケーターには多様な形態がありうる、と言ってもよい。だとすれば、それを無理矢理一つの型に嵌め込むのはナンセンスではないかと考えたのである。

2004年の秋(だったと記憶している)に、科学技術政策研究所の研究員であった渡辺政隆氏が、科学技術コミュニケーションに対する北海道大学の取組みを調査するために私の研究室を訪問された。その折に、科学技術コミュニケーション全般にわたっていろいろ意見交換を行ない、同じようなことを話し合ったと記憶している。

渡辺氏らの調査結果は、科学技術政策研究所第2調査研究グループによる「DISCUSSION PAPER No.39 科学技術コミュニケーション拡大への取り組みについて」として2005年2月に発表されている。その「4.提言」で、「ここで留意すべきは、「科学技術コミュニケーター」とは、必ずしも職業ではなく、一義的にはあくまでもコミュニケーションという機能を果たす人の総称であるという点である」と指摘されている

こうした考えから、科学技術コミュニケーター養成ユニットの「提案書」では次のように謳った。

コミュニケーター・コースでは、……研究機関や民間企業、自治体、NPO等から人材を受け入れ……、修了後は、それぞれのフィールドでのコミュニケーション活動において主導的な役割をはたせる人材に育てる。

ⅸ  http://www.nistep.go.jp/achiev/ftx/jpn/dis039j/html/dis039j.html