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105サイエンスカフェ札幌「ラストストーン軌跡カーリングAI選手の協力で勝利をつかめ!~」を開催しました

2019.4.12

2019年2月11日(月・祝)、紀伊國屋書店札幌本店1Fインナーガーデンで、第105回サイエンス・カフェ札幌「ラストストーンの軌跡 ~カーリングAIと選手の協力で勝利をつかめ!~」が開催され、80人の来場者が訪れました。

今回のゲストはAI(人工知能)の研究者、山本 雅人さん(北海道大学 大学院情報科学研究科 教授)と、カーリングの日本代表として冬季オリンピック3大会に出場した経験を持つ、小笠原 歩さん(オリンピアン)のお二人です。聞き手はCoSTEPの村井 貴(特任助教)がつとめました。会場には、どうぎんカーリングスタジアムよりお借りした、重さ20キロある本物のカーリングストーンや、ホワイトボード大の競技場(シート)のボード、そしてゲストが実際に使っているブラシやシューズの展示しました。

カフェの冒頭は、村井によるカーリングのルールと用語の紹介です。カーリングのチーム編成や試合の流れ、得点についてのルールが、カフェの内容を理解しやすくするための専門用語の解説を交えながら示されました。カフェの雰囲気に合わせるために、2006年のトリノオリンピックのJAPAN TEAMのユニフォームに身を包んでいます。

第1部は、山本さんによるカーリングAI「じりつくん」の説明です。カーリングは相手と交互に石を投げあい、相手のプレイの最中には、自身は何もできません。お互いに相手の手を先読みし、自分を有利にする一方で、相手が不利になるような一投を選択します。このようなカーリングの特徴は、AIの成功例である囲碁や将棋などのゲームとよく似ています。そこで、山本さんは、人間とともにカーリングの技術を向上させ、スポーツ観戦の支援を目標として「じりつくん」を開発しました。じりつくんの名前は、山本さんが所属する自律系工学研究室からとられています。

じりつくんの特徴に、得点差と残りエンド数から期待勝率を導く「勝率テーブル」があります。この勝率テーブルはAI同士の対戦から導かれています。勝率テーブルを使うことで「失敗するリスクがあったとしても高点数が得られるような手」を選択する意味が明らかになります。そしてもう一つの特徴が、局面評価関数です。ディープラーニングを用いて約100万局面を学習した「じりつくん」は氷上の石の配置から、エンド終了時の得点を予想することで、最も得点の可能性が高い一手を予想します。このように「じりつくん」は試合全体を見通す大局観と、エンドごとの作戦を立案する戦術力を備えているのです。

第2部は、小笠原さんによるトリノオリンピックの試合の振り返りです。小笠原さんは、トリノではカーリングで最後にストーンを投げる役目のスキップをつとめ、対戦成績4勝5敗で日本を7位入賞に導きました。カフェでは、1勝3敗で迎えた後半5試合を取り上げ、試合の鍵を握る「ラストストーン」を投じる際に考えていたことを話してもらいました。

今回のカフェのポイントになるのは、日本が第5戦の相手カナダに勝って迎えた、第6試合のスウェーデン戦です。延長の第11エンドを7対7の同点で迎えた日本、小笠原さんが悩んだ末に選んだ最後の一手はハウスの前に止まるガードストーンでした。対する後攻のスウェーデンが投じたラストストーンは、針の穴を通すような精密なショットで石の間をすり抜けハウスの中央により、結果日本は1点を取られて負けてしまいました。しかし、もし小笠原さんが考えていた別の一手、ハウスの中央に寄せる「攻め」の一投を選んでいたらどうだったのでしょうか? その答えは、カフェの後半で明らかになります。小笠原さんが、抜群の記憶力でトリノの戦略を語るのを聞き、一流のアスリートとはこういうものなのかと感じました。

第3部は、山本さんと小笠原さん、そして聞き手の村井を交えたトークタイムです。第2部で小笠原さんとともに振り返ったトリノの試合を、山本さんの研究室が開発した、じりつくんがAIの視点から分析します。先のパートで話題にのぼったトリノの鍵を握るスウェーデン戦。同点で先手を持つ日本の局面は「じりつくん」の計算によると勝率15%ほどで、かなり不利と予想されていました。しかし、実戦で小笠原さんの投じた一手で局面が変化し、勝率は44%まで上昇することがわかりました。さらに、「じりつくん」はハウスの中まで石を入れる「攻め」のストーンも提案し、その場合は勝率57%に高まりました。AIを用いて対戦を振り返ることで、新しいゲームの見方ができるようになるのです。

休憩をはさんだ会場との質疑応答の時間では、「試合ではAIが選択した手と自分自身の判断、どちらを選択するか?」という質問がありました。小笠原さんは「自分の選んだ手を選択する」と即答しました。加えて「AIによって思わぬ戦略があることに気づいたり、選手のレベルをあげていってくれたりすると思います」と語りました。また、山本さんは「やはり試合は選手のものですからね、選手の考えた一手を尊重します」と答えました。今後、AIと人間の協働を進めていくためには、もしかしたらこのように研究者とAIを使う側が、相手をリスペクトしあうような関係を作ることが大事になっていくように感じました。

山本さん、小笠原さん、そしてご来場の皆様、ありがとうございました。本イベントの実施にあたり、どうぎんカーリングスタジアムより、ストーンの貸与など多大なご支援をいただきました。また、No Maps実行委員会には特別協力として広報にご協力いただきました。ここに記して、深く感謝を申し上げます。