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CoSTEP14期修了式公開シンポジウム「地域が耕すサイエンス ~北のまちから始まる持続可能な未来への挑戦~」を開催しました

2019.4.9

2019年3月9日、CoSTEP14期の修了式に併せて公開シンポジウムを開催しました。ゲストは、都木 靖彰さん (北海道大学大学院水産科学研究院教授,元国際教育室長)、宮久 史さん(厚真町役場 産業経済課兼まちづくり推進課)、奈須 憲一郎さん(NPO法人森の生活ファウンダー、下川町議会 議会運営委員長)。コーディネーターは、CoSTEPの西尾直樹が務めました。CoSTEP受講生と一般参加者、合わせて110名が来場しました。

地域の現場と科学技術コミュニケーターの役割

はじめに、地域と科学技術コミュニケ―ションを考えていく意義について、コーディネーターの西尾さんから提示されました。地域に根差した科学技術コミュニケーションがCoSTEPの理念の一つであるように、地域の社会でどのように科学技術を活用していくのか、そしてその間をつないでいくことは、科学技術コミュニケーションの重要な課題の一つです。産官学民のコーディネート経験もある西尾さんは、【科学→地域】つまり科学の応用のための地域という視点と共に、地域の現場の中から社会の最先端が生まれる現場としての地域として、【地域→科学】という視点で地域を考え、これまでの科学だけでは得られない視点が生まれる可能性に目を向けていく必要があると語ります。

特定の社会課題に対して、それに関連するすべての関係する人たちが集まって、解決に向けて行動していく「コレクティブ・インパクト」という概念があり、西尾さんはこのような多様な人をつないで、より大きな問題解決に向かう活動に、科学技術コミュニケーターの重要な役割の一つがあるのではないか、と投げかけました。

大学と地域との連携の新しい可能性~北大と美深町との連携を例に~

北海道の美深町と北海道大学水産学部が連携し、チョウザメの養殖プロジェクに携わっている都木さんは、大学からも養殖を成功させるために様々な資源を提供している一方、地域からも大学に提供していただいているものもたくさんあると指摘します。例えば、チョウザメが持つユニークなコラーゲンや脊索は、水産学部の研究テーマとして活用されています。また、実践を通して学びたいという水産学部の学生を、美深町ではサマーコースという形で受け入れてくれているそうです。

新渡戸 稲造 先生は「地方学(ぢかたがく)」というのを提唱し、現場に研究の種があり、札幌農学校の人は現場に行って、地域の人と一緒に勉強して研究することを推奨していたそうです。都木さんは、これの現代版を今後地域と共に実施していきたいと考えている、と語りました。

人を起点にしたまちづくり~ローカルベンチャーのこれまでとこれから~

宮さんは元々は北海道大学で森林科学を学び、林業を現場で実践するために厚真町役場で働き始めました。しかし、林業だけが栄えても、町全体が停滞するのは本末転倒、そのため町全体を盛り上げる取り組みとして、厚真町で起業家を育成する「ローカルベンチャースクール」という仕組みを立ち上げました。持続可能なまちづくりのためには、一番必要なのは町を「資源化」してくれる人材だ、と語ります。

2018年9月に起こった北海道胆振東部地震で甚大な被害を受けた厚真町ですが、外部の力も巻き込みながら未来を見ていくことが厚真町の復興には必要だという結論になり、2018年度もローカルベンチャースクールは実施されました。東日本大震災の被災地域から、「結局、地域の社会課題の解決無くして真の復興は無いんだよ」というアドバイスをもらったという宮さん。復興と復旧、そして未来のまちづくり、それらを複合して厚真町のまちづくりは進んでいきます。

下川町 森と地域の共生を通してSDGsな地域づくり

北大の環境科学院を卒業後、持続可能な社会のコンパクトなモデルを地方自治で実現したいという思いから、下川町に移住した奈須さん。地方自治にも、大学で学んだ社会科学的観点が活用できたと語ります。例えば、社会学には、マージナル(marginal)は境界線、境界線上の人だとか、境界線を行き来する人、人と人を繋ぐような役割を果たすような人をマージナルマン(marginal man)と称するのですが、奈須さんは地域で活動する際、意識的にマージナルマンという立場に立つことを意識したそうです。

役場に勤めていく中で、地域の課題解決には構造的解決が必要な事柄があるということに気が付き、奈須さんは町議会議員に立候補し、町議として働き始めます。そこでも、議論の手法であるオープンスペース・テクノロジーを活用したり、議会の様子を配信することに取り組んだりと、新しいことに挑戦されました。社会の問題解決のためには社会的な課題を解決するときに、日本人は政治から一歩引いてしがちだが、社会を動かしていく政治無しには社会というのは変わっていかないと、奈須さんは語ります。そしてその際、より科学的な視点、つまり「政治にサイエンスを」という視点も重要だと、指摘されました。

今回のシンポジウムでは、話題提供後、来場者から質問を集め、後半はその質問をもとにパネルディスカッションを行ないました。そのうちのいくつかをご紹介します。

Q.なぜチョウザメのいない地域で養殖を始めたのでしょうか?

都木:チョウザメは、種類によるのですが、もともと北海道の天塩川と石狩川に生存していたという記録があります。昭和50年代以降全く取れていないので、現在は絶滅しているだろうと思いますが、ゆかりがない地域ではないのです。1980年代に美深町がチョウザメ養殖に乗り出し、なかなかうまくいかないことがあり、2000年代になってから北大にご相談があり、そこから我々の連携活動が始まったという経緯があります。

Q.ローカルベンチャーを支援する際、その人の本気と覚悟を重視するとおっしゃっていましたが、本気や覚悟を評価するシステムというものはあるのでしょうか?

宮:結局、起業したい本人がどれだけ自問自答を行ったかにつきると思います。最終的に、「厚真町の支援が無くてもやりますか?」と聞く場合があります。その際、「やります」と言えるかどうか。ローカルベンチャースクールでは、自分の中で色々と考え、自分に向き合っていくことを支援していく活動を行っています。

Q.政治にサイエンスが加わることによって、その政治が機能するというのは、具体的にどういうことなのでしょうか?

奈須:ゲームを作るというのが本質的に何かというと、ルールを作ることなのです。社会を何か大きく動かすためのゲーム、つまり政治でも、まずは小さい集まりの中でルールを決める必要があります。ルールを作る際に、闇雲に作るのではなく、科学的な視点を取り入れたり、トライ&エラーで検証しながらやるといった科学的なプロセスを取り入れることによって、ルールの精度が高まるのではないかと考えています。

Q.お三方とも外から地域の中に入って活動していらっしゃるのですが、もともと住んでいらした方々とのコミュニケーションはどのようにとられていますか?

都木:永遠の課題だと思います。ただ、地域には地域のローカルルールもあれば、僕が知らないこともたくさんある。基本的には地元の方の意見を尊重するのが重要だと思います。

あと、多分北大も、地方の大学ですから、東京の大学から比べると、相当ゆっくりしていると思うのですが、それでも地域の時間の進み方はゆっくりしているなと感じます。ただ、そこで急かすのではなく、その地域の時間の進み方に合わせて対応していくことが重要だと思います。

宮:僕の役場の中の話と、どれだけ多くの職員と雑談するかということが、まず大事だなと思います。なんとなく知らないと、相手のやろうとしていることを疑ったり誤解したりしてしまいます。丁寧で泥臭いコミュニケーションを重ねていくことが重要だと思います。

奈須:下川町の場合は、鉱山や林業で産業が起った地域なので、元々よそ者には寛大な雰囲気があります。しかし、やはり10年単位の長期的スパンで町に関わっていくという覚悟を持つ必要があると思います。僕より先に移住してきた人が10年で燃え尽きて去っていたのですが、その10年後に町はSDGsの町として大きく変わりました。ある中国の故事に、「10年、偉大なり。20年、恐るべし。30年で歴史になる」という言葉があるそうです。長期的な関りの中で変わっていくんだという覚悟が必要だと思います。

Q.活動を継続するために重要な仕組みとは何でしょうか?

奈須:仕組みまで仕掛けるのは、それこそかなりの時間を要するのですけれど、ポジションを取る、ポジショニングというのは大事だと思っています。話を聞いてもらえる立場に自分の立場を持っていくということは重要かなと思います。

宮:スモールスタートで、細かい、小さいチャレンジから、うまく行きそうな芽を的確に拾っていく。最初のハードルは小さめに設定するということが、結局は将来的に長く続けていけるということになるのかもしれません。
また役場的な話でいくと、担当者を変えないということです。担当者を変えないことは役場的にはとてもハードルが高いのですが、やりたい職員をその職に就かせることが一番重要なため、議会などの理解を得ながら進めています。

西尾:継続のためには行政にも本気と覚悟が必要なのですね。

都木:そうですね、特に美深町の場合は、先ほど紹介しましたように、町が養殖施設に多額の資金を投入して、養殖事業を本格的にやっていこうということを決断されました。これはすごい勇気だと思うのです。町側がリスクを取ったということです。

宮:役場というものは基本的には失敗できない組織なのですが、僕はそんな役場を失敗できる組織に変えていく必要があると思っています。納得感のある、説得力のある失敗って、あると思うのです。「あのとき真剣に考えて、こうだと思ったけれど、こういう事態が起こってダメでした」って。そのときに「ナイス・チャレンジ!」と言える町になりたい。それは役場だけではなくて、町民自体も、「失敗しても良いじゃん」という、「失敗することもあるよね」という失敗しやすい町でないと、とチャレンジは始まりません。

奈須:話が繋がるのですが、ちょうど役場に提案するために読んだ本で、『失敗の科学』という本があります。失敗を資源として検証した航空業界は、事故の発生確率を抑えることに成功しました。役場を失敗を次のステップに活用する資源として捉えようという提案を始めたところでした。

西尾:失敗の科学というテーマだけでもまた一つのシンポジウムができそうですね。それでは、これでシンポジウム、「地域が耕すサイエンス ~北のまちから始まる持続可能な未来への挑戦~」を終わらせていただきます。皆さん、ありがとうございます。