櫻井 結希穂(2020年度 本科/学生)
私たちは「古い」と「新しい」を、何を基準にして感じ取っているのでしょうか。いつの時代のものか?名前を知っているか?使えるか使えないか?
同じものを見ていても人によってその見え方は恐らく違います。そこには単なる時間軸はもちろん、場面や感情など、それぞれの人が持つ背景も大きく関係しています。
「古い」を過去のこと、不要なものとして忘れてしまうのではなく、「新しい」と比べることで見えてくるそれぞれのよさがあります。そうして過去をふりかえることで、私たちが未来へつなぎたいもの、つなぐべきものは何なのか、少しだけ考えてもらうきっかけを作りたいと考えました。そこで私たちはアートがもつ表現の不完全性を利用して、「古い」と「新しい」を表現することに挑戦しました。
実際の展示はアーティストの鈴木 泰人さんとコラボする形で行われました。
鈴木さんの展示は、札幌市内や北大のなかで見つけてきた古いものを並べ、ものが時を経ることで姿形を変えながら、様々な意味での「古い」と「新しい」を何度も往来する様を表現されていました。
実習生が考えた展示コーナーでは、メンバーそれぞれが思う「古い」と「新しい」を表現しました。各々が考えた展示を紹介します.
①陸紫薇
繊細な絵のタッチに紙の質感まで、至る所にこだわりを感じる古い図鑑。それに対して写真やVR等の技術を活用した最新の図鑑。デジタル化が進んでいる現在、これまでのものと最新のものとの間にはどのような差や共通点があるのかを考えてもらいました。
②原 勇貴、濱崎 友美
小学校のときに使っていた手渡しのプロフィール帳や交換ノート、どこにいても情報やヒトとつながれるネット。現在は情報の取得やコミュニケーションが簡単にできるようになりました。それに伴って人との距離感、情報との距離感はどのように変化したのかという問いを投げかけました。
③和田 順子
様々な香草や乾物などの決して新鮮とは言えない食べ物。でも乾燥させることで長期保存が可能になり、うまみや栄養も増します。時間が流れることで失われるものもありますが、同時に新たな価値が生まれていることを気づかせてくれました。
④鷲尾 幸輝、櫻井 結希穂
若い黄色いバナナと熟した黒いバナナ。この2つの間に老いや腐敗を感じる人もいれば成長や熟成を感じる人もいます。同じだけ時を過ごしてもそれに対する解釈は人によって微妙に異なっています。この差はどのように生まれるのでしょうか。
訪れた方に質問に回答してもらう参加型のコーナーも設けました。ここでは、展示を通して様々な新旧に触れた後に、自分にとっての「古い」は何であるのかを考えもらいました。回答の際に、悩んだり、楽しそうに話したりしてくださる様子が多く伺え、考えるきっかけを作るお手伝いができたのではないかと嬉しく感じました。回答には抽象的なモノから具体的なモノまで、さらに時間軸的なもの、個人の感覚に由来するものなど、様々な「古い」がありました。いろんな年代、背景を持つ人に参加してもらうことで、訪れた方々の様々なものの見方や価値観に触れることができたように思います。
実際に参加者の方は各年代、理系文系バックグラウンドにかかわらず幅広く来ていただき、さらに我々が意図したたまたま通りがかって展示を見てくれている方が多かったです。
また、開催期間中、私たちは日誌を手書きで付けることでCoSTEPの他の実習班の受講生や先生方との交流を行いました。人によって全く異なる手書きの言葉からは、書かれた内容だけでなく、その人の個性までも読み取ることができました。人の手書きの文字を見ることが少なくなった現在、それはとても新鮮であり、懐かしさもありました。
最後に、この展示では、メンバーのほとんどがアートに初挑戦しました。理解もできないのに展示ができるのかという不安しかありませんでしたが、準備を進める中で、アートは文章などよりも抽象的な表現を得意としているのだから、必ずしも作者の意図が明確に伝わる必要も、無理に理解する必要もないのだと感じました。そこで私たちが感じたように、アートは敬遠するものではないということ、更に目標である「古いと新しいに目を向けてもらう」ということ、この両方を訪れた人に伝えるにはどうすれば良いかを考えながら展示に臨みました。自分自身が素人からスタートすることで、専門家と市民の間に立つ科学技術コミュニケーターとして大切な視点を得られたと思います。
今回は「古い」と「新しい」をテーマに展示をつくりました。現在、コロナの影響で新しい生活様式が次々と導入されていますが、それらをただ受け入れるのではなく、これまでと一度比べてみてみませんか。そして自分なりの価値や解釈を見つけていけば、毎日の景色が少し変わってくるかも知れません。
最後になりましたが、展示品の収集に協力してくださった方、シフト調整に協力してくださった受講生の方、そして鈴木 泰人さんありがとうございました。