あなたがこの記事を読んでくださっているということは、CoSTEPの受講に興味があったり、あるいは、本科か選科か迷われたりしているのではないでしょうか? 一年前、私もその一人でした。今回は、一年間CoSTEPで学んだからこそ知ることのできた科学技術コミュニケーションの世界のほんの一部分を、当時の私への道標として記してみます。
想像できないことを創造していける場所
CoSTEPには実に多様なバックグラウンドをもつ方が集まります。これの意味するところは、自分ひとりでは考えつかないようなことでも、対話を重ねていくなかで創り出すことができるということです。もちろん、一年間の学びを通して自身の考えの幅が広がったというのもありますが、その本質は、協働により新たな価値を生み出していける、ということだと思います。
この協働による価値創造というのは、演習での打ち合わせのみならず、科学技術コミュニケーション全体に通じていると思っています。同じ物事に対しても、私の感じることとあなたの感じることは違う。それは当たり前といえば当たり前です。でも、他の人の「感じ」を知覚するためには、お互いに自分の「感じ」を共有することが必要で、さらに、共有するためには共有できる場が必要です。このような、お互いが対話できる場の創造を、実践によって体現できる場所が、CoSTEPなのではないかと思います。
なにでやるか? だけでなく、なにをやるか?
本科か選科か? この選択は、CoSTEPに応募しようと決めた私も最後まで悩みました。というのも、私は北大生で、本科を選択することも十分に検討する余地があったからです。さらに、17期(2021年度)は講義と演習がすべてオンラインベースで行われることが応募の段階で予告されていたのも、本科と選科を迷う一因となりました。
実際には、当時の私は、「研究と両立するには本科は厳しいかな~」「北大では出会えないような人と会ってみたい」という二つの理由で、選科を選びました。しかし、私の属している班(くまこうせん)は、集中演習で設定の4日どころか、通算で10日以上もミーティングするような、ある意味ですごく忙しい班でした。でもそれは、私を含めて班の皆がとてもアツく、班としてやりたいことをどうやったら実現できるか、そのためには何をすればいいのかを頭フル回転で考えようとしていたからだと思います。もちろん、時間をかければそれだけで良いということでもありませんが、くまこうせん班にはそれが合っていた、ということです。くまこうせん班は、その後11月に北海道で顔を合わせることになり、さらにその場でもサイエンスイベントを行いました。このときも集中演習と同じようにミーティングを重ね、各々がイベントのための作業を行い、非常に忙しく動き回りました。
結局、本科にも並ぶような濃密さで学んだ1年間。振り返ってみれば本科を選んでも良かったのかもしれません。でも、大切なのは、本科と選科のどちらを選ぶかではなく、それぞれの場所で何をやるか。自身の向き合い方によって濃くも薄くもなる。それがCoSTEPでの学びだと思います。
結局、科学技術コミュニケーションとは何なのか?
一年前、私は、科学技術コミュニケーションとは、市民と専門家をつなぐことだと答えました。しかし、一年間のCoSTEPでの学びを経て、それだけが科学技術コミュニケーションではないと考えることができました。CoSTEP修了特設ページ「科学技術コミュニケーションとは?」を見ると、科学技術コミュニケーションというものがいかに多様で、複雑で、だからこそ、やる価値のあるものであると感じます。その入り口となり、科学技術コミュニケーションを考えることのできる場所、その一つがCoSTEPです。
CoSTEPの扉は、すでに開かれています。勇気を出して一歩踏み出せば、新しい景色が広がっているはずです。
寺田一貴(2021年度選科A)
北海道大学 大学院生命科学院 博士課程2年