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アイデア実験場としてのCoSTEP:科学と物語の融合をめざして

2022.3.22

CoSTEPでの一年は、自分の持つ問いをひたすらに探求してきた一年間であったと思います。以下では、印象的なトピックをピックアップして時系列で振り返ります。

科学と物語のあるべき関係とは?

入学当初の私は特別なサイエンスのバックグラウンドを持たず、また自分自身がサイエンス・コミュニケーション(以下SC)という分野に今後どう関わっていくのかについても、十分な答えを持ち合わせていませんでした。

転機となったのは、6月末に提出した課題レポートです。同レポートはSCの手法について考えるものだったのですが、私は当時SF界隈の間で注目を集めていた「SFプロトタイピング」という手法をSCの文脈において活用できないかと論じました。奇しくも同時期、趣味ではじめて書いたSF短編が、WebメディアであるVG+社さんの開催された「第2回かぐやSFコンテスト」にて選外佳作という賞を頂きました。これらの体験が、以後の私のCoSTEPでの活動を方向づけることになりました。

科学と物語。サイエンス・コミュニケーションとサイエンス・フィクション。

この二つの存在をどう結び付けていくか? それが私が追及するテーマとなりました。

サイエンス・ライティングにおける物語の活用

科学と物語の融合というアイデアの実現可能性を検討するため、私は、9月の選科Bの総合演習にてPoC(概念実証)を行うことにしました。同演習では自由なテーマでサイエンス・ライティングの文章を各自で作成するのですが、ここで私は「因果関係」をテーマとする物語を書く、という企画案をぶち込んだのです。

正直、結構ギリギリのラインかなと覚悟していたのですが、企画書を見て頂いたCoSTEPの先生方に後押しして頂いたのに加え、選科Bの同期たちからもアイデアを肯定的に受け入れて貰え、皆のアドバイスを貰いつつ無事、二日間の総合演習の期限内にて、成果物を形にすることができました。

(総合演習の成果物:「因果リツコの地獄裁判」)
WSにおける物語の活用:SFプロトタイピング

総合演習の余韻冷めやらぬ11月、私はもう一つ重要な体験をすることになりました。選科Bでは本科や選科Aと合同で行われる共通実習を受講可能なのですが、偶然にも今年度より新規開催されたSFプロトタイピングに関する実習(SF創作共通実習)を受講させて頂くことができたのです。

第一線で活動するプロのSF作家・プロトタイパーの方の行うワークショップを経験することができたのは、同分野に関心をもっていた私にとっては非常に有意義な体験でした。 なお、同実習で作成された成果物は以下にて閲覧可能です。

ELSIの概念工学としてのSF

同じ時期、もう一つ手応えを感じることがありました。12月、自身が執筆したSFの短編が第9回日経「星新一賞」の最終候補に選ばれたのです。同作品はAI等の先端科学技術が社会実装された社会における課題(ELSI)を主題としたもので、CoSTEPでの学びがそのまま内容に生かされていました。

残念ながら受賞には至りませんでしたが、このことはSCにおける物語の活用というテーマを探る私にとっては、とても大きな一歩となりました。

CoSTEPはあなたのアイデアの実験場

私にとってのCoSTEPは、アイデアの実現可能性を検証する「実験場」でした。知識やスキルの習得だけでなく、自身のアイデアについて周囲の協力やフィードバックを受けながらトライ&エラーを積み重ねるための環境がCoSTEPにはあります。それはSCの実践を目指す皆さんにとっては、きっと他の何よりも価値があるものだと思います。

岩尾拓馬(2021年度選科B)
会社員