今年度のCoSTEP最終講義は、北海道大学文学研究科教授・宮内泰介先生による「参加型地域調査のすすめ」のお話でした。先生のご専門は、環境社会学という環境の問題を社会的な観点から考える学問であり、各地で様々な手法で調査を実施、人との繋がりを大事にする活動をされています。
【科学の問題と社会の問題にはズレが生じることがある】
水俣病などの公害問題や、震災による原発の問題の事例から、科学のデータは、科学領域の中での問いには答えられるが、その答えでは社会の問題を解決できない事が多いといいます。この科学の問題と社会の問題のズレを解決するために、市民が立てた問題に対して、科学者が答える仕組みが必要といいます。科学技術コミュニケーターの役割は、その仕組み作りを担う意味でとても重要なのです。
先生は、これからの科学技術コミュニケーターには、科学や研究を自ら組織・コーディネートし、社会の中での科学や研究の位置づけを再編する役割があると示してくれました。
【社会科学とは、意味社会を考える事】
自然科学は、対象が自然のものであるのに対して、社会科学は対象がヒトです。対象がヒトですから、調査する側も、対象となる相手も考えている事が違った解釈をしていることがあります。この場合,研究者は各々の事象の「意味」について考える必要があります。研究者や科学者の一方的な意見で結論は出してはいけないということです。様々な問題に対して調査をし、その事象の「意味」を考えることが社会科学という学問になります。
【数字ではなく、言葉で表現する調査】
自然科学では、「数字」による結果で結論を出す事が多いですが、社会科学では数字ではなく、「言葉」で表現する事が有効です。そのためには質的調査が大事と言います。市民の立場から主体者側にたって調査できる「参加型調査」を行います。町づくり計画のための住民への聞き取り調査(北海道南幌町)、地元の歴史を伝承するための中高生によるかつお加工産業への聞き書き調査(静岡県御前崎市)、集団高台移転計画の合意形成ワークショップの支援(岩手県石巻市旧北上町)、などを行う先生の活動は、その地域の活性化や行政計画に大いに貢献しています。このような活動が今後ますます必要になってくる事を感じました。
今後の科学技術コミュニケーターの果たすべき役割が広がっている事を再認識できた最終講義となりました。ありがとうございました。
(2012年度 選科生 小川静香)