2013年9月29日(日)14時から、第71回サイエンス・カフェ札幌「つくろう!まちの未来予想図―研究者の卵たちと語り合う参加型手法―」が紀伊国屋書店札幌本店前インナーガーデンで行われました。
今回のサイエンス・カフェでは、来場者に、「「参加型まちづくり」の手法の多様性を理解してもらうこと」「カフェでの議論にできるだけ積極的に参加してもらうこと」の二点を目的としました。そのため、従来のサイエンス・カフェとは大きく異なる二つの手法を試みました。
これまでとは違う2つの手法にチャレンジ
まず1点目は、特定の専門分野を持った教員1名をゲストとするのではなく、参加型まちづくりに関わる研究を行っている大学院生4名をゲストに迎えたことです。これにより、できるだけ多様な参加型まちづくりの手法を知ってもらおうと考えました。
2点目は、プログラムの後半にグループディスカッションの時間を設けたことです。4名のゲストに異なる切り口で話題提供をしてもらった後、カフェの来場者がそれぞれ自分の好きなテーマを選んで、そのテーマについて話題を提供したゲストとより密接な意見交換を行うことができる時間をとりました。これは「参加」に関するプレゼンテーションをただ聞いているのではなく、カフェの来場者にも実際に「参加」を体感してほしいと考えたからです。また、大学院生に話題提供を行ってもらうことで、来場者のみなさんに気軽に質問や発言をしていただけるのではないかと考えました。
前半は4名のゲストによる8分ずつの話題提供
カフェ前半の4名のゲストからの話題提供では、それぞれ8分ずつお話していただきました。
まず初めは「表現芸術がつなぐ、これからの街創り」と題して、公共政策大学院修士1年の三浦健一さんにお話ししていただきました。三浦さんの研究テーマは「NPO」です。「NPO」とは利益の追求を至上の目的とはしない団体のことで、政府から独立した市民参加による組織です。三浦さんは研究活動以外にも、実際にNPO化を目指す表現活動を主体とした団体の代表を務めたり、地域活性化を手がけるNPO法人にインターンシップを通じて参加したりするなど、多彩な実践を並行して行っています。NPOを通じた三浦さんの活動は、演劇やアート製作、更にはご自身のラジオ番組を持つなど多種多様です。来年札幌で行われる国際芸術祭への市民参加の方法の1つとしてNPO法人を捉えており、芸術祭で行われる様々な表現芸術を一過性のものでは終わらせず、これからの街創りに活かしたいとの考えを伝えて頂きました。
次に「観光からまちづくりを考えよう!」と題して、観光創造専攻修士1年の川本雅也さんにお話ししていただきました。以前は「余暇」として位置付けられていた観光ですが、日本では2003年の観光立国宣言以降、急速にその重要性への認識が高まっている分野です。川本さんは特にLCC(格安航空会社)と丘珠空港に着目しており、観光客の新規層開拓に貢献しているLCCが、北海道の観光や丘珠空港にどのような影響を与えているかについてお話していただきました。また研究活動以外にも、利尻島・礼文島の飲食店での新規メニュー開発による島おこしの取り組みなど、観光を切り口としたまちづくり活動を紹介していただきました。
そして3人目、農学院修士1年の渡辺康平さんに「市民が札幌の“食”を変える」と題して発表していただきました。渡辺さんは研究でも農業とまちづくりをテーマにしていますが、今回は「北大マルシェ」の代表としてお話していただきました。「北大マルシェ」とは、毎年決まった日に道内各地から北大キャンパスに集まった生産者たちが自慢の野菜を販売する、学生主催のイベントです。このイベントでは、生産者と消費者の関係は売る・買うというものだけではなく、消費者から生産者への情報提供など、双方向性を意識している点が特徴的です。渡辺さんは市場をつくる消費者がより積極的に食のことを考え市場に参加することで「まちが食に豊かになる」と言います。食を切り口に札幌をどうしていきたいかを考えていきたいとのことです。
最後は、「未来のさっぽろのまちづくり〜住民活動のためのまちづくりセンター〜」と題して、工学院修士2年の吉村務さんにお話ししていただきました。建築を専攻している吉村さんですが、建物を「つくる」ことより「つかう」こと興味を持ち、まちづくりセンターの研究を行っています。通称まちセンと呼ばれる、市民自治によるまちづくりを推進するための施設ですが、市民による自主運営化を達成したまちセンとそうでないもので、活動に差が生じているそうです。より活発なまちづくり活動を市民主導で行っていくために、充実したまちセンの使い方を考えることが研究のテーマだそうです。
後半は参加者が4グループに分かれてのグループディスカッション
カフェの後半では、4人のゲストに話していただいた話題を手がかりに、カフェ参加者の方々がそれぞれ興味を持った話題提供者の下に集まって4つのグループに分かれ、約30分間のグループディスカッションを行いました。それぞれのグループで時間が足りなくなるほど活発なディスカッションとなり、カフェ参加者の方々からの意見やアイディアもたくさん聞くことができました。
NPOをテーマとした三浦さんのグループでは、来年開催であるにもかかわらずほとんど知られていない札幌国際芸術祭をテーマにしてディスカッションが行われました。内容もほとんど決まっていないのですが、逆にこれを市民参加の余地と捉えて、どういうイベントになるといいか、参加者の方々から色々な意見が出ました。例えば、期間中様々なジャンルの音楽や絵画、クラシックカー展示など、いろいろな芸術にまちなかで身近に触れる機会を持てるような芸術祭であれば参加したいという意見が出ました。
観光をテーマとした川本さんのグループでは、LCCと丘珠空港をテーマにしたディスカッションが行われました。LCCにより成田空港が活性化したことを参考に、丘珠でも空港を活性化させたいという意見が出ました。また、アクセスの問題や騒音問題などに対処しながら、丘珠空港ならではの空港活性化を考えるべきだという意見もありました。
食をテーマとした渡辺さんのグループでは、北大マルシェをテーマにディスカッションが行われました。北大マルシェは相互に会話をする事をコンセプトとしており、生産現場から消費者に一方的に情報や主張を伝えるだけではなく、市民の想いを生産者に伝えるイベントと位置付けられています。具体的な方法について参加者からの質問があったのに対し、渡辺さんは、コンセプトを出店者に説明して販売方法を工夫してもらったり、買い手に質問カードを配って意見を募ったり、農産物を販売している傍らで農業機械や道具を展示するなどの取組みを行っていることを説明していました。参加者の方からは、コンセプトをどんどん深めていくような継続的な活動を行ったり、マルシェに来た人にコンセプトを今まで以上に深く共有してもらうことで、北大マルシェとしての魅力が出てくるのでは、という意見が出ました。
まちづくりセンターをテーマとした吉村さんのグループでは、自主運営化や維持管理についてディスカッションが行われました。札幌市には約80カ所まちセンがあり、他市と比較しても大変充実しており、これを市民参加に活用してまちづくりを行う事が大切だそうです。また、まちセンを自主運営化すると市から200万円の補助金が出るという説明を受けて、「一斉に70カ所のまちセンを自主運営化し1億4000万円を財源として高齢者に対応したまちづくりを行ってはどうか」という参加者の方からの興味深い提案もありました。
最期にディスカッションを全体で共有
最後は各グループのディスカッションの内容をグループファシリテーター役を務めたスタッフが順番に発表して全体で話題を共有し、それを受けて、メインファシリテーターがまとめを行いました。
通常と異なる方法を用いて、参加型まちづくりをテーマにしたサイエンス・カフェを行いましたが、カフェの参加者に多様な「参加型まちづくり」の切り口を提示しただけではなく、カフェでの議論に実際に「参加」してもらうことで、「まちづくり」というテーマに少しでも興味を持っていただけたのではないかと思います。
今回のサイエンス・カフェで挑戦した方法や得られたアイディアを参考に、今後のイベントをよりよいものにしていきたいと思います。参加者の皆様、協力してくれたゲストの方々、また支えていただいたスタッフ、本当にありがとうございました。
CoSTEP本科生 山崎嵩拓(北海道大学工学院都市計画研究室修士課程1年)