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個体発生は進化を くりかえすのか

2010.6.29

著者:倉谷滋 著

出版社:20050700

刊行年月:2005年7月

定価:1200円


一つの受精卵が生物の形になっていく過程を個体発生と呼びます。この過程が系統発生、すなわち進化のみちすじをくりかえしているのではないかという考え方、「反復説」が、今から140年ほど前、ドイツの生物学者ヘッケルによって提唱されました。

 

 

私たちは母親のおなかの中で、魚だった時代の夢を見ているのだ、とも思えるこの学説は非常に魅力的で、ロマンチックとすら言えそうです。この考え方にのっとって様々な発見がなされる一方、科学の発達につれ反復説は否定されるようになったのです。 しかし否定されながらも,反復説はなぜか生物学の舞台から立ち去る事はありませんでした。私自身,高校時代に生物の図説で反復説を知った時に,強く惹き付けられた記憶があります。目で見て分かる,マクロをミクロに投影する反復説は,理論以前に感覚的に受け入れられやすい側面があるようです。

 

 

それではプロである研究者にとって、反復説とは現在,どういう存在なのでしょう。 この本は、発生学の研究者である著者の、学生時代のとある体験談から始まります。発生途中のニワトリとウミガメの卵の中の胚(人間で言えば胎児)を観察していた著者は、その類似性に驚きます。実験によって得られたデータからではなく、自分の目で見て「似ている」と感じたことに、強いインパクトを受けました。

 

 

しかし科学は進歩して遺伝子レベルの研究が繰り広げられ、学生だった著者は研究者となり、前著『動物進化形態学』(東京大学出版会・刊)では「反復しない」と、反復説を否定しています。そんな著者がなぜ、この本を執筆するに至ったのでしょうか。 「それでもこの反復説は、実際の胚の姿を見る限り、捨ててしまうには惜しいほど魅力的な表現なのだ」「どうしても我々は胚の姿に祖先の面影を探さずにはいられないらしい」という本文中の表現からも分かるとおり、反復説は私たちだけでなく一流の研究者をもつかんで放さない、魅力的ながらもやっかいなしろものであるらしいのです。

 

 

この本では、反復説の歴史から最新の研究成果まで、あらゆる角度から反復説を考察しています。著者曰く、「本書は気ままな本である」という通り、系統的に学びたい人には不向きかもしれません。しかしそれだけに、反復説について考え、悩む著者の等身大の姿が見えてくるようです。 前述した、著者の学生時代の「似ている」と感じた体験、すなわちニワトリとウミガメの発生過程の類似性は後年、新しい研究手法による研究成果として示されました。更に,そもそも「似ている」から始まった反復説は、最新の研究成果とどうつながっているのでしょうか。感覚と理論の結びつきは、真実を明らかにできるのでしょうか。 本書を読み、あなた自身の目で見て、一緒に考えてみませんか?

 

 

清水華子(2009年度CoSTEP選科生,滋賀県)