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救え!世界の食料危機 ここまできた遺伝子組換え作物

2011.2.2

著者:日本学術振興会・植物バイオ第160委員会監修 著

出版社:20090300

刊行年月:2009年3月

定価:1400円


 人類はおいしい作物を効率よく生産するため、栄養価の高い作物や病気に強い作物を1万年をかけて作り出してきた。普段私たちが食べている甘くて粒の多いトウモロコシも、品種改良を重ねた結果生まれた。原種を見ればその違いに驚くとともに、品種改良の重要性を認識するにちがいない。現在では1万年の時を経ずとも遺伝子組換え技術によって新しい機能が付加された作物が作られてきている。

 

 

 そのような遺伝子組換え作物に対して、あなたはどのようなイメージをもっているだろうか。拒否反応を示す人も少なくないだろう。では、遺伝子組換え技術によってどのような機能をもつ作物が開発されているか、説明することはできるだろうか。本書では、その答えとなる様々な遺伝子組換え作物が紹介されている。

 

 

 現在最も多く栽培されている遺伝子組換え作物は、害虫に強い作物と除草剤に耐性をもつ作物である。前者はBt作物と呼ばれるもので、虫がそれを食べると死んでしまう。本書ではそのメカニズムが科学的に説明されているので、人には大丈夫なのかといった不安が解消されるかもしれない。後者の除草剤耐性作物についても、科学的な説明とその必要性が、栽培の背景から示されている。

 

 

 遺伝子組換え技術の偉業を感じるのが、5章の「ハワイのパパイヤを救え!」である。ハワイではパパイヤ産業がさかんであるが、ウイルスによる被害が問題になっていた。そのためウイルスに強いパパイヤを遺伝子組換え技術によって作る試みが始まった。ウイルスの拡大と、遺伝子組換えパパイヤの商業栽培への展開とで、どちらが早いか時間との戦いとなり、テレビドラマのような手に汗にぎるストーリーが展開される。もし遺伝子組換え技術がなかったら、もし安全性試験で手続きに時間がかかっていたら、ハワイのパパイヤはなくなっていたかもしれない。

 

 

 遺伝子組換え作物はこれだけではない。約2,000万人の日本人がかかっているとされる花粉症や、貧困地域で問題になっているビタミンA不足も、遺伝子組換え技術で作られたお米を食べるだけで改善されるかもしれない。食品の観点からだけではなく、土壌汚染物質の環境浄化も遺伝子組換え技術で効率的に行うこともできる。サントリーが販売している、遺伝子組換えによってできた青いバラの花言葉は「夢かなう」である。「こんなものがあればいいのに」というあなたの希望も遺伝子組換えによってかなえられるかもしれない。

 

 

 このように、遺伝子組換え作物は食料問題の解決をはじめとする様々な可能性を秘めている。一方でその技術に慎重な姿勢を示している人たちがいるが、本書はそういった人たちを説得するような内容ではなく、遺伝子組換え技術がどこまで進んでいるのか、科学的にわかりやすく解説するものである。プロローグには「遺伝子組換え作物についてよく知って、個人個人が判断できる社会が健全ではないだろうか」と提案されている。例えば、日本は遺伝子組換え作物の世界一の輸入国であるという現状を、あなたは知っているだろうか。是非本書を読んで遺伝子組換え作物について考えてみてほしい。

 

 

四方 雅仁(2010年度CoSTEP選科生、茨城県)