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地球持続の技術

2011.9.19

著者:小宮山宏 著

出版社:19991200

刊行年月:1999年12月

定価:740円


 今や日本中が節電モードである。3.11以前も節電や省エネの呼びかけはあったが、現在はその切迫度が大きく異なる。日本に住む私たちが、いや日本の原発事故を契機として世界中の人々が、今後のエネルギー供給をどうすべきか、地球全体の問題として切実に考えざるを得ない状況に直面している。

本書は、1999年時における、地球を持続させる完全循環型社会への道筋と2050年に到達すべき地球持続社会-「ビジョン2050」の青写真を描いたものである。刊行からすでに10年以上が経ち、環境、エネルギーを取り巻く状況は激変してしまった。しかし、石油の枯渇、地球温暖化、廃棄物の大量発生に対応する「ビジョン2050」の妥当性は、3.11以降の今もほとんど変わっていないと思われる。むしろ、1999年の視点で、「未来のある時点で社会がこういう状況になっていれば地球は持続できるというマクロなビジョン」を論じた本書は、いま改めて読まれるべき時ではないかと思える。

2050年。世界人口がピークを迎え、大量生産・大量消費が途上国にも浸透し、「エネルギーの消費量が現在の3倍を超え、素材の生産量に匹敵するほどの廃棄物が地球上にあふれ、大気中CO2濃度は産業革命以前の2倍を超えている」と著者は予測する。そのような破局を回避し、地球持続社会に転換するための課題が、以下3点を基本原理とする「ビジョン2050」なのである。

 

 

(1)    エネルギー効率の向上

石油の枯渇、地球温暖化の解決に向けて、省エネ技術でエネルギー効率を3倍にする

(2)    人工物の飽和と循環

廃棄物の大量発生への対応策として、リサイクルによるものづくりを推進し、物質循環システムを構築する

(3)    自然エネルギーの開発

化石資源に代わる自然エネルギーの利用技術の実用化と規模の拡大で、自然エネルギーを2倍にする

エネルギー効率をどうやって3倍にするのか? リサイクルはかえってエネルギーを消費しないだろうか? 自然エネルギーは、どうやったら2倍になるのか? これらの疑問に対して、例えば、ガソリン消費量4分の1の車や効率5倍のエアコン、効率3倍の照明の開発・普及等によってエネルギー利用効率3倍が可能になるなど、ビジョン実現の道筋が具体的に示されているので、上記3つの目標が2050年に十分到達可能であることが納得できるだろう。

原発事故を機に、エネルギー問題に興味が湧いても、関連本は内容が難しそうで、一般の人は手に取りづらいのが実情ではないだろうか。しかし、本書は、専門分野が異なる人、専門的な知識をもたない人とも「ビジョン2050」を共有しようという意図のもとに執筆されているので、"文系"の人でも途中で挫折することなく一冊読み通せるだろう。また、本書は安全性への不安から原子力増強に懐疑的であり、自然エネルギーの開発に力を注ぐべきとしている点も、今や共感する人が多いかもしれない。

本書が描いた2050年のビジョンは、3.11以降の今も決して色褪せてはいない。読者は、ここを出発点として、さらに自ら得た知見を加え、それぞれの「ビジョン2050」を描くことが、本書をいま読む意義ではないだろうか。

 

 

小川 容子(2011年度CoSTEP選科生、東京都)