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極北の動物誌

2014.11.7

著者:ウィリアム・プルーイット(岩本正恵 訳)

出版社:新潮社

刊行年月:2002年9月

定価:1700円


好きなものについて書くとき、著者プルーイットのように読み手の想像力を豊かにかき立てる描写ができたらどんなにいいだろうか。この本を読み、私の目の前にはアラスカの大自然の風景が現れた。緻密な観察に支えられた臨場感ある描写には、極北の大地に広がる豊かな自然を読み手の中に広げる不思議な力がある。

動物学者であるウィリアム・プルーイットが、アラスカという「極北の地」で生きる動物や先住民の生態を物語のようにつづったのが、本書『極北の動物誌』である。ムースやカリブーといった大型の動物からハタネズミやノウサギといった小型の動物まで、はたまた自然の中で生きる先住民の生活までもが描かれている。フィールドに出るのが好きで、アラスカの雪の原野を犬ぞりを駆ってよく旅をしていた著者らしく、まるで動物たちと同じ暮らしをしてきたかのような臨場感溢れる描写が散りばめられている。

ハタネズミという手のひらサイズのネズミがいる。アラスカに広く分布しており、フクロウやキツネといった肉食動物たちの大切なエサとなっている。このどこにもでもいる小さなネズミの生態にも、アラスカの冬に適応した工夫が詰まっている。亜北極の短い秋の輝きも消えた頃、地面には落ち葉や枯れ葉がぶ厚いマットのように積みあがる。その中には、ハタネズミによって管理される網目状の巣穴が広がっている。根っからの家事好きであるハタネズミは、種子や食べられる小根をせっせと貯え、ひまさえあればトンネルの掃除と修理に精を出す。旧世界では、「エコノムカ(主婦)」と呼ばれていたのも納得である。

雪が降り積もると、ハタネズミはますます活発に動き出す。積雪による魔法が起こるのだ。積雪量が15 cmから20 cmを超えると、雪の層が十分な断熱効果を発揮するようになる。するとハタネズミは積雪の内部にまで数多くのトンネルを伸ばしていく。厳しい冬の生活は、雪によって支えられているのだ。本書ではさらに他の動物たちの世界が、科学的な視点も交えて冷静に語られていく。

秋も深まり、北海道にはこれから長く厳しい冬が訪れる。そんな中だからこそ、同じように厳しい冬を懸命に生き抜く動物たちの生活をそっと覗き、思いを馳せてみるのはいかがだろうか。

上海一輝(2014年度CoSTEP本科)


連続書評企画もいよいよ明日11月8日が最終回。御期待下さい。