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81サイエンスカフェ札幌「なつかしい未来へ映像で見る福島の〜」を開催しました

2015.2.24

2015年2月15日、紀伊國屋書店札幌本店前インナーガーデンにて、第81回サイエンス・カフェ札幌「なつかしい未来へ〜映像で見る福島の今〜」を開催しました。

■映像を取り入れた新しいスタイル

今回のサイエンス・カフェは、東日本大震災からもうすぐ4年になる福島の現状を知り、放射能に関する科学的知識を身につけて、福島の未来を考えようと企画したものです。

あいにくの強風と吹雪という悪天候で、この企画に協力してくださっている福島からのゲストの皆さんがカフェに間に合わないというハプニングもありましたが、幸い70名をこえる熱心なお客さんにお越いただきました。ありがとうございました。

北海道大学工学研究院 藤吉亮子さん

ゲストは北海道大学工学研究院で環境放射能を研究テーマに福島や世界中を調査で飛び回っている、藤吉亮子准教授。おだやかな語り口で、放射能の基礎から分かりやすくお話いただきました。

ファシリテーターはCoSTEP受講生の田中泰生さんです。

CoSTEP受講生の田中泰生さん

今回のカフェの特徴は、実際にCoSTEPの受講生たちが福島へ調査に行き、現場で調べたこと、見たこと、感じたことを映像でレポートした点にあります。

藤吉さんの科学的なお話に、受講生の福島での現地映像報告をまじえながら進行するという、新しいスタイルを試しました。

これらの一連の調査やイベント企画は科学研究費(基盤C)「映像メディアを介した新たな科学技術対話手法の構築」の研究支援により進められました。サイエンス・カフェなどの科学技術対話の場を作るときに、どのように映像メディアを活用できるか考える研究プロジェクトです。この研究費をもとに2014年度CoSTEPのカリキュラムにおいて、リスクコミュニケーション実習を立ち上げました。

■放射能の基礎知識を身につける

まずはα線やβ線、γ線といった主な放射線の正体や、放射能の単位ベクレルなど放射線の基礎知識について藤吉さんからお話いただきました。

その後、受講生の池田貴子さんから、福島第一原発周辺での放射線計測の様子について映像報告がありました。

さらに放射線量を一定間隔で記録し、GPSデータをもとにGoogleMap上に表示した地図を会場に見せました。原発周辺であっても、線量が必ずしも高い場所ばかりではないことも実際に計測した結果をもとにお伝えしました。

CoSTEP受講生の池田貴子さん

同時に、受講生の渡邉綱介さんが、実際に福島へ持っていった線量計を、お客さんに見せながら、カフェの会場を計測しました。その値はおよそ0.15〜0.18マイクロシーベルト毎時。池田さんが地図で示した、広野町のJヴィレッジスタジアム付近とほぼ同じ値です。

現地の放射線量が札幌と比較して、どの程度のものなのか、会場のお客さんにもおおよその感覚をつかんでもらえたのではないかと思っています。

■科学を超えた問題を考える

カフェ前半では、ベクレルやシーベルトといった数値の読み解き方を通して、放射能の影響について科学的な面から理解することを目的に話を進めてきました。

後半は福島の農産物に関するお話です。福島は全国有数の米の産地ですが、原発事故以降、販売は伸び悩んでおり、お米の放射性物質について世界初の全量全袋検査を行っています。2014年12月末までに計測した米は、全て基準値(1kg当たり放射性セシウム100ベクレル)を下回りました。

サイエンス・カフェでは藤吉さんの科学的解説に加え、福島の農家のインタビューや全袋検査の様子を通して、お米の安全性について詳細に伝えました。

CoSTEP受講生の渡邉綱介さん

そして、この万全な検査を受けたお米を、学校給食に導入している現地の状況について、受講生が映像でレポートしました。確かに福島の検査体制は日本一であり、子供が食べてこそ安全性をアピールできるという声があることも事実です。そして福島の復興には農業の再建が不可欠です。

しかし、原発事故を通した科学や行政への不信、そして子供を復興の矢面に立たせることへの抵抗感、そして意向アンケートなどをとらない一方的な手法への批判も根強くあります。

これはいわゆる科学をこえた問題、いわゆる「トランス・サイエンス」(trans-science)と言われる領域です。トランス・サイエンスとは、「科学に問うことはできるが、科学(だけ)では答えることのできない領域」を指す造語で、もともとアメリカのオークリッジ研究所のワインバーグが1972年に提唱しました。

この学校給食問題について、給食センターで実施している食品に関するさらなる厳格な検査体制を伝えると同時に、福島の母親たちから不安について伺ったインタビューも流しました。

その上で、会場の皆さんに「自分のお住まいの地域で、福島県産のお米を学校給食に導入しようという行政からのお知らせが来たらどう考えますか?」と、意見を聞きました。その結果、およそ賛成が3割、反対が7割でした。

科学と放射能の問題に関心のある市民に対して、科学的な解説をよく行った上で意思表示を求めた結果、「学校給食には福島のお米を使うことは反対」という声が多かった事実は、重要な示唆であると考えています。

今回の結果をフィードバックさせながら、3月のシンポジウムやワークショップに生かしたいと思っています。

■なつかしい未来へ向けて

最後に、受講生の池田さんが大熊町の未来へ向けた取り組みを紹介しました。大熊町は原発1〜4号機を抱え、ほとんどが帰還困難区域です。そしてその中には、膨大な除染廃棄物の中間貯蔵施設も設置されることが最近、決まりました。町民が故郷へ戻ることは現時点では絶望的です。

しかし、そんな中、再建へ向けて動き出す元職員の皆さんがいらっしゃいます。池田さんたちは原発廃炉へ向けた研究と未来へ向けた街づくりへの思いをインタビューしてきました。

その結果、取材前に想像していたような、ただ町に還りたい、というノスタルジックなものではなく、原発の安全性や廃炉について研究するための学園都市にしたいという未来を見据えた計画だったことに、明るい希望を感じたと報告してくれました。

福島での現地調査で協力してくださった川嶋茂雄さん

今回の福島調査に協力していただいたNPO「富山SAVEふくしまチルドレン」の川嶋茂雄さんからも会場でコメントをいただきました。大熊町では様々な動きが始まってはいますが、最も大きな問題は風化だそうです。川嶋さんは被災地への関心を持続させるために大熊町のスタディーツアーを実施しています。興味のある方は、こちらからどうぞ。

その後、藤吉さんが「研究者と一般市民をリスクコミュニケーションによって結ぶ人たちが何より重要」であり「科学的根拠に基づいたぶれない見解をもった集団がそうしたコミュニケーションを粘り強く続けていくことが必要」だと述べました。

最後に、ファシリテーターの田中さんはこう話しました。「科学的には安全であっても、“不安なものは不安”という感情に対しても、科学者は寄り添うことが求められる。一方でわたしたち市民は、科学やそこにあるリスクについて、まずは知ろうとすることが大切だと感じた」。

ご来場いただいた皆様、ありがとうございました。