iPS細胞、ゲノム編集、分子標的薬……医学の世界では革新的な技術が日々登場しています。医学生の私にとっても、ひとつひとつの発見について理解することは容易ではありません。ましてや、ふだん医学に触れる機会のない一般の方々にとって、医学的発見はより理解しがたいものでしょう。こうした中、目まぐるしく進化している医学の世界を一般市民に伝える技術を学びたいと、CoSTEPの受講を決めました。
受講を決めたのには、私の経歴も関係しています。私は大学卒業後、報道記者の仕事をしていました。もともと科学報道に興味があり就いた職で、やりがいを感じていました。しかし、より研究に近い位置にいたいという思いから退職。現在は再び大学に入り、医学を学んでいます。これまでの経験を活かし、最先端の医学を文章の世界でわかりやすく伝えることが私の夢のひとつです。
そこで、私が履修したのは「選科B」というライティングに焦点を当てたコースでした。選科Bでは普段の授業をe-learningで受講します。私は道外からの参加でしたが、全授業を無理なく自分のペースで視聴し、無事に修了できました。講義の内容も、基礎的な科学コミュニケーション論から研究者の方々による実践例に至るまで幅広く、興味深かったです。
特に北海道大学で実施された3日間の演習は、かけがえのない経験となりました。科学ジャーナリストである内村直之先生の指導・添削をはじめ、印象的な講義や実習ばかりでした。受講生が2人1組となって互いにインタビューを行い、パートナーの人物紹介を執筆する「人コラム」。絵画や風景など、自由にテーマを設定し文章のみで表現する「文章デッサン」。3日間かけてひとつの文章を書き上げる「課題文」の実習では、各班に1名の教員が専従でつき、懇切丁寧な指導を受けることができました。集中演習には選科Bの受講生として、専門分野の異なる社会人から学生までが参加していて、今まで気付くことのなかった考え方に触れることができます。実習後の飲み会も良き思い出です。
演習中には、キャンパス内でジンギスカンパーティー(略してジンパ)を目撃し、急遽取材する機会にも恵まれました。この記事は「道外人、ジンパに出会う」というタイトルで、北海道大学の魅力を紹介するウェブサイト「いいね!Hokudai」に掲載していただきました。医学についての課題文を書き上げに来たつもりが、ジンギスカンの記事を執筆することになろうとは想像もしていませんでした。このようにライティングを実践する機会を自由に得ることができる点も、CoSTEPの魅力です。
選科Bでは科学コミュニケーションに不可欠なライティング力だけでなく、同じ志を持つ異分野の優秀な人材と知り合える貴重な機会を得ることができます。CoSTEPは知識や技術の習得だけでなく、人とのつながりを築く貴重な場になること間違いなしです。
山岸陽助(選科B)
神戸大学医学部医学科