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2018年度開講式特別プログラム「メタクリエイター発想法」(講師:伊藤博之さん)

2018.7.6

5月14日、CoSTEP開講式にあわせて開催した特別プログラム「メタクリエイターの発想法」には150名以上の方々がつめかけました。ゲストはクリプトン・フューチャー・メディア株式会社(以下、クリプトン)の伊藤博之さん。“場”をデザインする役割を担うことの多い科学技術コミュニケーターにとって、参考になるヒントが随所に散りばめられていた講演内容をご紹介します。


メタクリエイターとはなにか

クリプトンの顧客には音楽を作ったり、イラストを描いたりするクリエイターが多い。顧客がクリエイトする際に必要なツール、製品、サービスをクリエイトする側自身もクリエイターといえる。クリエイターのためのクリエイター、クリプトンではその立場を端的にメタクリエイターと呼ぶ。

会社設立は1995年で、まもなく23年目に入るクリプトンのキャッチフレーズは「ツクルを創る」。2007年にスタートした、サウンド配信サイト「SONICWIRE」はゲームや動画の中で使えるサウンドを提供している。例えば、ゲームの中でジャングルの情景音を使いたい場合、実際に海外に行って録音しようとすると、労力と時間と費用のコストがかかるが、欲しい音をサイト上で購入することができれば、それらを抑えることができる。他にも、音楽を作る時に使う楽器のフレーズや楽器の音そのものも配信している。ゲームや動画、音楽を創作するクリエイターを音の面からサポートするSONICWIREは、まさにメタクリエイターの発想法で設計されている。

(サウンド配信サイト「SONICWIRE」)

「創作の連鎖」を可能にするライセンス

歌を歌うソフトウェアとして開発した、バーチャルシンガー・初音ミクはキャラクターとして広がっていった側面があった。ミッキーマウスに代表されるように、キャラクターは著作権によって保護されていて、勝手に使用することはできない。しかし、クリプトンでは初音ミクをはじめとする自社のキャラクターのライセンスを独自に規定することで、クリエイターの二次創作を可能にしている。

クリプトンが提供する、投稿&コラボサイト「ピアプロ」では、クリプトンのキャラクターを用いた二次創作物を投稿する際、その創作物を他のクリエイターが利用することに対する同意が求められる。そうすることによって、クリエイターは誰にも許可をとらずに創作し、発表することが可能になり、結果、二次創作、三次創作…n次創作の連鎖が広がっていった。

(初音ミクはピアプロ独自のライセンスで広がっていった)

T字型の成長

クリプトンのコーポレート・アイデンティティは「音で発想するチーム」で、設立以来一貫して音にフォーカスしてきた。初音ミクやSONICWIRE、バーチャルインストゥルメントと呼ばれるソフト音源など、いずれも音を注力して生まれた製品・サービスである。クリプトンではこの姿勢をT字型と呼ぶ。

音を徹底的に掘り下げることで、ウェブサイト制作や音の信号処理の技術に詳しくなったり、キャラクターの著作権に明るくなったりするなど、周辺分野の知識やスキルを獲得することができ、それが事業拡大につながっていった。得意分野を深く掘り下げるだけでは、細長い三角形になる。一方で多くのことに手を出すと、散漫になる。深く掘る得意分野を持ちながら、他にもどんどん応用していくことで、徐々に正三角形に近づいてバランスのよい成長が遂げられる。そして、その三角形を大きくすることが、さらなる成長と飛躍につながっていく。

(得意分野を掘り下げながら、その関連分野に進出するとバランスよく成長ができる)

北海道×クリエイター

北海道札幌市を拠点に活動してきたクリプトンは北海道をキーワードに様々なプロジェクトを進めている。代表的なのは昨今札幌で根付き始めたシメパフェである。ススキノの商業施設ノルベサの1階にオープンさせた「MIRAI.ST cafe & kitchen」(以下、MIRAI.ST)では、標茶町の酪農家から提供してもらった牛乳を使い、シメパフェとして提供している。

シメパフェとは飲んだ後のシメにラーメンを食べる感覚でパフェを食べる、札幌発の新しい食文化のことで、MIRAI.STは同じくパフェを提供している近隣の店舗と一緒に協力して普及活動に励んでいる。また、MIRAI.STは快適に通信できるWi-Fiや大人数でもミーティングができる広いスペースを用意しているため、その場に集まったクリエイター同士がすぐにコラボレーションするといったことが可能になっている。カフェという場所をメディアとして捉え、文化の発信基地として活用しているところはメタクリエイターならではの考え方である。

(MIRAI.ST cafe & kitchen)

クリエイティブコンベンション「No Maps」

2016年から、札幌市を先端テクノロジーの「社会実験・社会実装の聖地」にすることを目指す、クリエイティブコンベンション「No Maps」がはじまった。No Mapsはアメリカテキサス州オースティンで毎年開催される「SXSW(サウス・バイ・サウスウエスト)」をモデルに企画され、音楽・映画・インタラクティブの3分野で北海道の活性化を行うことを目的としている。

クリプトンはインタラクティブ部門の統括を担い、これまでにNTTデータと群馬大学の協力を得て、札幌市の公道で自動運転車の走行実験を初めて行ったり、CoSTEPとともにVRによる体験型理科教育の可能性を探ったりしてきた。こういった大きなスケールの“場”のデザインにおいてもまた、メタクリエイターの力が発揮されるのである。


没入!バーチャル支笏湖ワールド」)