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討論劇と評決ワークショップ「その時、あなたは埋め込むか?討論劇で問う生体IoTを用いた健康管理の是非〜」を開催しました

2019.3.8

鈴木花(2018年度 本科/北海道大学大学院生)

2019年1月27日、札幌市資料館 刑事法廷展示室にて、CoSTEP対話の場の創造実習 劇団DoSTEP 2018のメンバーが中心となり、討論劇と評決ワークショップ「その時、あなたは埋め込むか?~討論劇で問う生体IoTを用いた健康管理の是非~」を開催しました。当日は天気にも恵まれ、40名が観劇に訪れ、陪審席は満員御礼となりました。

札幌市資料館 刑事法廷展示室にて いよいよ開廷です

市民会議 それは科学技術についてあなたが考える場

舞台は今から十数年後の近未来。新たな科学技術導入に対して、その是非を問う市民会議が開催されます。今回提案されたのは、体内への埋め込むIoT端末“パルヴス”を用いた健康管理です。開発者は、この埋め込み型装置を使うと24時間365日、装着者の生体情報を集めて、健康管理を行うことが可能となると主張します。しかも、利用者にかかる費用は無料、逆に、長期間装着を続けると「生体情報の提供」に対して利用者は謝金が得られるしくみです。

今回の科学技術を先頭に立ち推進するトライワン・フォース総合研究所の代表理事 松村祥子

 

肯定側の証人医療経済システム学科特任教授の山崎唯華

 

陪審の代表となる代理人から、肯定側と否定側の代表に質問を行います。肯定側の医療経済学の専門家は「知は力なり」と述べ、自身の健康情報を知ることとその情報を用いた合理的な健康管理の重要性を強調します。一方で、否定側の生命倫理学者は、この装置はプライバシーを侵害していると述べ、この装置が普及したら「装置を体に埋め込みたくない人も、埋め込まざるを得なくなる、自発的な強制が生まれるのではないか」と反論します。40分における弁論の後、陪審員である参加者の皆さんは、5班に分かれ各自が評決を考える「評決ワークショップ」を行いました。

生体IoT導入に反対する倫理学者の田中芽生(左)と市民の代理人として質疑を行う伊藤美依(右)

 

評決ワークショップ

評決ワークショップではまず、陪審員が自分の意見を表明することから始まりました。その際に論点とするのは、身体への機械の埋め込みの是非、健康データとプライバシーの関係について、自分の体の状態を知ることは果たしてよいことなのか、自己決定は大事だが、埋め込みを自己決定で決めてよいのかの4点です。その後、各自が自分の意見の理由を確認し、全体が納得できる評決をまとめていきました。50分のワークショップはあっという間に過ぎ、判決が言い渡される判決編へと移っていきました。

50分の評決ワークショップ どの班でも熱い議論がなされました

判決やいかに!?

各班の陪審員の代表の方が評決と但し書き、そしてその理由を発表してくださいました。その結果、賛成1反対4で生体IoT技術の導入は認めないという判決が言い渡されました。その後各演者がそれぞれの思いを述べ、討論劇は幕を閉じました。

陪審員代表から各班の評決を発表

白黒つけられるのだろうか

ワークショップや判決の中で目立ったのは部分否定の意見が多いことです。例えば、「自分は埋め込みたくないけれども、社会のためには必要だと思う」というものや、「装置のメリットについて、この部分は良いと思うが、ここから先は受け入れられない」というもの。これは、私たちが健康もプライバシーどちらも大切であると思うように、一人の人間が複数の価値を持っているためです。しかしその中でも肯定・否定どちらかの判決を出さなければなさない、そしてその判決に従わなければならない。この科学と社会の問題に生じるジレンマに対してどのように向き合えばよいのかを考えさせられる時間でもありました。

実は初体験

実は今回の討論劇の演者のほとんどが演劇初体験。そこで、札幌の劇団、弦巻楽団の代表である弦巻啓太さんに演劇ワークショップを開いていただきました。演劇に大切なのは、演者同士の関係性。そしてそれは表情だけでなく、動作のスピードや話し方、そして演者間の距離など色々なファクターによって左右されることを知りました。これらを踏まえ脚本作成の際も、登場人物のキャラを明確にし、それをどのような態度で示すのかを受講生の中で話し合い、何度も練習し本番を迎えました。

弦巻楽団の弦巻啓太さん(左)と受講生(右)二人の位置や顔の高さ、背筋の伸ばし方の違いで様々な関係性を示せることを実演

まとめ 何が人を動かすのか

脚本の中で気をつけたことは登場人物の設定以外にもあります。その一つが情報バランスです。人が何によって物事を理解し、納得するのかを考え、脚本・演劇、そしてワークショップの中にどう散りばめていくのか。今回の討論劇を通じてじっくりと向き合うことが出来ました。

先端科学技術を考えるとき、それに対する正確な情報は必要不可欠でしょう。しかし、同じ情報があったとしても、その受け取り方は千差万別です。ではなぜ異なるのか。このことを考えるには、我々一人一人が根本に持つ“価値”に目を向けてみる。そして自分とは異なる他者の価値を知り、どう受け入れていくのか。さらにはその価値が変わる瞬間はいつ、どのような時なのかなど、科学と社会の関係を考える上で、人々の価値観に焦点を当てる意義を感じさせるイベントとなりました。

当日ご参加いただいたみなさま、お手伝いしてくださった方々ありがとうございました

札幌市資料館様には共催として、快く会場を提供していただきました。ここに記して、感謝の意を示します。


このイベントは、2016年度科学研究費助成事業 基盤研究(C)「デュアルユース概念の科学技術社会論的検討(課題番号 16K01157)」(研究代表者 川本思心)および、2018年度 科学技術社会論・柿内賢信記念賞(実践賞)「演劇の専門家による「対話劇」を用いた「科学技術の社会実装についての熟議の場」の創出」(研究代表者 種村剛)の助成を受けて実施した。