4. 交わる47. Facebook
2012年のことである、CoSTEPにいつしか「広報部」なるものができた。そして夏の頃だったと思う、「部長」の大津さんから「北大を紹介するFacebookページを始めてはどうか」という提案があった。
CoSTEPの活動を紹介するFacebookページはだいぶ前から運用していたのだが、今回の提案は「北大の魅力を様々な角度から紹介する」というものだった。CoSTEPの事業計画で、JSTのサイエンスチャンネルならぬ、仮称「北大チャンネル」を開設するという計画になっていたので、私はいいアイデアだと思った。
スタッフ会議に諮り、名前も「いいね!Hokudai」と決まった。「北大の魅力を様々な角度から」となれば、しかも科学技術コミュニケーションの教育研究を行なうCoSTEPが運営するとなれば、科学技術に関するコンテンツを含める必要があるだろう。かといって、科学技術の話題だけでは「息の詰まる」サイトになってしまう。そのあたりの舵取りは大津さんに担当してもらい、私は科学技術の研究に関する記事を、月に1~2本、書いてみようと考えた。
大学の公式ウエブサイトに、北大の研究者によるプレスリリースが掲載されている。でもそのままでは、大学に進学しようと思っている高校生が読んでも、研究成果の内容や意義を理解することは、まずできない。そこで「高校生でも読んでわかる、そして研究者の人柄もわかる」を目標に、取材して記事を書いてみようと思った。次年度、CoSTEP受講生の実習授業に使えるかも知れないという読みもあった。
プレスリリースを、まず読んでみる。でも理解できない。テクニカル・タームをWikipediaなどで調べながら、何度も読み返す。すると、どこがわからないのか、なぜわからないのか、が次第にわかってくる。そこで研究者に会って、未だわからない部分を中心に質問する。この一連の過程を体験することで、門外漢でも大要をつかめるようにするには、どんな順で話を展開し、どこを丁寧に説明すればよいか、浮き彫りになってくる。これは、目の前の霧が次第に晴れていくような、新鮮な体験だった。
余裕が出て来ると、ちょっと意地悪な質問もできるようになった。「これだけのデータから、ここまで言いきるのは無理じゃないですか。」すると笑顔で答えが返ってくる。「そうですよね。」プレスリリースのもとになっている論文を見てみると、ちゃんと慎重な言い回しになっているではないか。また、「どうしてこの研究テーマを選んだのですか、研究費を獲得しやすいからですか?」と水を向けると、苦笑いして、「まあ、そんなところですかね。」研究費の獲得など、いろいろ苦労しているんだなと察した。同じ大学人だから、生の声を聞き出しやすいのかもしれない。
どの研究者も、自分の研究を生き生きと語ってくれる。ほんとうに研究が楽しそうで、こちらも元気をもらえる。各地にあるフィールド系の研究施設を訪ねたり、水産学部の練習船おしょろ丸に乗船したりと、貴重な体験もできた。かつて元村有希子氏がCoSTEP受講生に「記者として研究者とつきあうのって、楽しいですよ」と語っていた。そうだろうなと、つくづく思った。
取材のときの写真撮影は、ほとんど大津さんにお願いした。円熟した男性研究者をじつに魅力的に撮ってくれる。そのせいで、写真に負けない文章をと意気込まざるを得ず(出来は別として)、なかなかのプレッシャーだった。でも、書きあげたときの満足感はいいものだ。結局2014年3月までの1年半にあれやこれやで計70本あまり、平均して週1本のペースで書いてしまった。
FacebookをCoSTEPの教育にも活かそうとした。2013年度に、Facebook「いいね!Hokudai」の「クローズアップ」シリーズに記事を書くという授業を、本科選科を問わず受講できる選択科目として開講した。お試し期間には6名がチャレンジしてくれた。だが本番にはゼロになってしまった。2014年度は、その「敗因」を分析したうえで、本科の実習として開講したと聞いている。
難しい研究内容をわかりやすく文章で解説することができる。これは、科学技術コミュニケーターに求められる文章力として、一般に考えられているものだろう。でも私は、もう少し別の要素も必要なのではと思う。ステークホルダー間に「対話の架け橋をする」ことも科学技術コミュニケーターの役割だとするなら、立場・意見を異にする人たちの間に「対話を誘発する」ような文章を書くことができなければならない。これも、科学技術コミュニケーターに求められる文章力ではなかろうか。「対話を誘発する」文章は、単に「わかりやすく解説し(て両論併記し)た」文章とは違う。
ずっと前から盛んに行なわれてきた「理解増進活動」は、科学(の楽しさ)を分かりやすく伝える、そして科学を理解し信頼する人たちを増やしていくことに力点を置いていたと言えよう。そこに新たに登場してきた「科学技術コミュニケーション」は、立場や意見を異にする人たちの間に「対話の架け橋をする」活動も大切だと主張する。
こうした経緯からか、「科学を分かりやすく伝え、科学を理解し信頼する人を増やす」活動と「対話の架け橋をする」活動が、何かしら対立するもののように捉える向きがある。しかし私は、そう思わない。今や「対話の架け橋をする」ことなくしては「科学を理解し信頼する人を増やす」ことができない、そういう時代になっている。逆に「科学を分かりやすく伝える」ことができなくては「対話の架け橋をする」こともできない。両者は車の両輪である。CoSTEPは多様な活動を展開することで、自ずとこの両輪を得てきたのではなかろうか。
おっと、ここは思い出を綴るところだった。私論試論は止めにしよう。