3. 深める39. 討論型世論調査
WWViewsって、いったい何ものなのだろう?どういうフィロソフィーに基づいているのだろう?そう思って調べるうち、討論型世論調査(Deliberative Polling;略してDP)なるものに遭遇した。そうか、これが原型か。ならば一度、自分でDPをやってみよう。情報提供資料も、WWViewsではDBTから与えられたものをただ翻訳して使うだけだが、自分でゼロから作ってみたい。そう思って、準備を開始した。2009年の夏頃だったと思う。
CoSTEPでは「CoSTEPセミナー」なるものを時々開催していた。年度当初に予定した講師のほかに招聘したい方が新たに出てきたときに、修了生にも公開して開催するセミナーである。ここに柳瀬 昇 氏(信州大学全学教育機構准教授)をお招きした。ネットで検索し、日本でDPの第一人者とお見受けしたからである。こうしてDPの背後にある政治哲学(討議型民主主義)も知ることになった。
実施のための資金集めも始めた。まずは科研費に応募するべく、メンバーを集めた。DPのテーマは、北海道に関係の深いBSE問題かなと漠然と思い、RISTEXの社会技術研究開発事業でBSE全頭検査問題を取り上げていた、吉田氏たちに声をかけた。農学分野の専門家として、佐藤 和夫 氏(酪農学園大学准教授)にも声をかけた。面識があったわけでもなければ、誰かの紹介があったわけでもない。ネットを検索し論文リストを見て、この人だ!と思ったのだ。もちろん柳瀬氏にも参加して頂き、CoSTEPからは斉藤健さんと鳥羽さんに、2010年春から参加してもらった。
基盤研究のBに応募するかAに応募するか、迷った。Aなら大きな金額の助成を得られるが、採択される可能性が低い。確実さを優先してBに応募した。その結果、採択はされたものの、DPを実施するにあたり資金不足がつきまとった。三上さんには資金繰りの苦労をかけてしまった。
科研費の応募書類を書いていたころ、ある方から「科学技術社会論学会の学会賞に応募しないか」という話をいただいた。賞は与えられるものなのに、なんで応募?と不思議に思ったが、そういう仕組みらしい。受賞となれば賞金がもらえるので、図々しいと思いながらも応募した。締切日の22時頃、函館から札幌に向かう特急のグリーン席で応募書類を書き上げ、メールで送信した。PC用の電源サービスがあるというのでグリーン車に乗ったのだが、なにせグリーン車に乗るのはこのときが初めてだったから、よく覚えている。おかげさまで受賞でき、賞金を全額、DPの実施につぎ込んだ。
ちなみに「ある方」とは、AAASの会場でCoSTEPの活動に注目してくださった方である。学会賞について声をかけてくださったのは、その時のことがあったからだろう、と私は思っている。AAASへの参加が、予想外の果実をもたらしたのだ。
DPの山場は、参加者が会場に集まって討論をくり返しアンケートに回答するところである。そのイベントを「みんなで話そう、食の安全・安心」という名称で、無作為抽出で選ばれた約150人の方々に集まっていただき、2011年11月5日に実施することになった。
討論のときなどに使う情報提供資料は、同年の春ごろから執筆を開始した。意見の対立がある問題について、それぞれの言い分をきちんと汲み取り、バランスよく書かねばならない。単なる「並記」では読み物にならないので、それなりのストーリー性ももたせねばならない。四苦八苦したが、いい経験になった。
情報提供のためのビデオも制作した。BSE検査の実態を伝えるのに、映像に及くものはない。食肉の加工場や検査所の撮影許可をもらうにあたっては、受講生を含め数人の方から助力をいただいた。撮影では早岡さんに奮闘してもらった。
ビデオでの情報提供はあくまでも冊子での情報提供を補助するものである。したがって、冊子にはない新たな情報をつけ加えることはできない。また、見る人の感情をゆさぶって、意見を誘導するようなことがあってはいけない。こんなことに配慮しながら、1ヶ月ほどかけて編集をした。試作版を関係者に見てもらったところ、早岡さんから鋭い指摘がかえってきた。「編集を始めた方にありがちなポイントです。全体にカットが早い、遊びのカットがない、間がなくて見ていると疲れる、ナレーションが早い、テロップが早い」などなど。いやあ、おっしゃるとおり。指摘の数々はどれも、文章と映像という二つの表現形態の本質的違いに通じるものだと思う。
早岡さんは、映像表現のコツを私の作品に即してハウツー的にまとめてくださった。流石だと思った。でも、最低限の改修を行なっただけで、作業終了とした。使っていた編集用ソフトが、発売されてまもない製品でバグが多く、数時間かけて作業した分が何かの拍子に消えてしまうのだ(作業の途中で強制的に保存することもできないⅹⅹⅶ)。
改善に向けての早岡さんのコメントは、なるほどと思うものばかり。
でも、それらを自家薬籠中のものとするには、何本も作品を作って練習しないとだめなんだろうな。文章でも、教えられたことが身につくには、書く体験を何度もくり返さねばならないように。科学技術コミュニケーションの教育にも、「習うより慣れろ」とは言わないが、「何回もやって習熟する」という機会がやはり必要なのだろうと思う。
ⅹⅹⅶ 情報提供資料やビデオなど、このDPに関する資料はすべて一般に公開されている。
http://hdl.handle.net/2115/49877
http://hdl.handle.net/2115/50075