2015 CoSTEP10周年
CoSTEP私史|杉山滋郎

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科学技術か、科学か

CoSTEPという略称をめぐる議論には、いくつかの重要で、しかも根の深い論点が、絡み合っていた。

一つは、科学技術コミュニケーター養成ユニットという日本語に含まれる「科学技術」の訳語として、Science and Technologyがふさわしいのか、それともScienceだけでいいのか、というものである。

英語のScienceは日本語の科学技術に相当するものも含む、という指摘があった。そこでこの点についてMcMahon先生に確認したところ、基本的にこの意見を認めつつも、Science and Technologyと言い、Technologyの特性を際だたせる場合もあるとのことだった。

これに相応する形で、そもそも日本語名称に「技術」は不要で、「科学コミュニケーター養成ユニット」でよいではないか、という意見も出た。

ただこの点は、議論しても現実的な意味はなかった。なぜなら、「科学技術コミュニケーター養成ユニット」という名称で振興調整費に応募して採択されたという経緯があるので、いまさら変更できないからだ。

では、なぜ振興調整費に応募するときに「科学技術コミュニケーター養成ユニット」と、科学ではなく科学技術を冠した名称にしたのか?

一つの理由は、科学技術振興調整費による事業に応募するのだから、科学ではなく科学技術のほうがいいだろうということ。「科学」振興ではなく「科学技術」振興のための経費であり、その呼称の背景にはいろいろな事情が潜んでいるに違いないと忖度した。

また、大学のいろいろな部局の人たちから協力を得るには、科学より科学技術のほうがよい、という判断もあった。のちにCoSTEPという略称について議論するなかで、「工学部の先生は、“技術”という言葉が入っていないと、自分たちには関係ないことだと考えてしまう」という趣旨の発言があった。自分の直観的な判断でよかったのだなと、そのとき思った。

さらに、応募時点ではあまり明確には意識していなかったのだが、技術ないし科学技術をめぐるコミュニケーションの重要性をしっかり打ち出すべきだ、という思いもあった。原子力、遺伝子組換え、ナノテク……と挙げていけばわかるように、社会との接点で問題になるものには、多くの人の用語法で「技術」ないし「科学技術」にかかわるものが多いからである。

という次第で、応募にあたり、「科学」ではなく「科学技術」としたのであった。だから、英語名称でもScienceではなくScience and Technologyにしたいと思った。次のようなメールを送信して議論を収束させた。

ScienceかScience and Technology かについては意見が割れていますが、当初はScienceの包括性を支持する意見が強かったものの、次第に、日本の大学等の現状を考えてScience and Technologyのほうが良いという意見が盛り返したように、杉山には思われます。