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「インストラクショナルデザイン教えることの科学と技術~」(10/2) 杉浦真由美先生 講義レポート

2021.10.23

「インストラクショナルデザイン~教えることの科学と技術~」 (10/2) 杉浦真由美先生 講義レポート

辻ひさ(2021年度選科/社会人)

はじめに

モジュール3の4回目は、北海道大学高等教育推進機構特任准教授、杉浦真由美先生にインストラクショナルデザインについてお話しいただきました。

インストラクショナルデザイン(Instructional Design:ID ) とは、教育を中心とした学びの「効果・効率・魅力」の向上を目指す手法のこと。「教えることの科学と技術」とも呼ばれているのだそうです。


講義は、随所にブレイクアウトセッションでのワークを交えながら、穏やかな雰囲気で進みました。

効果的な学習設計のために

学習者が効果的・効率的に学ぶために、教える側はどのような教育設計を行えば良いのでしょうか。杉浦先生によれば、学習者が身につけるスキルには、体を使って覚える「運動スキル」、言語情報・知的技術を学ぶ「認知スキル」、物事や状況を選ぶ/避ける気持ちである「態度スキル」の大きく3つがあるといいます。それぞれの学習スキルのゴールと、評価方法について、歯磨きを例にご説明いただきました。

これらのスキルを学習者が効果的に身につけるために鍵となるのが、メーガーの3つの問いです。①どこへ行くのか(学習目標)、②たどり着いたかどうかをどうやって知るのか(評価方法)、③どうやってそこへ行くのか(教育内容)。これらを教える側が意識し、学習者と共有することで、教育設計がより効果的になりそうです。


学習者の身につけるスキルのゴールと評価方法について、歯磨きを例に。

 

土台となる3つの心理学

IDは、行動分析学、認知心理学、状況的学習論の3つの心理学が土台となる学問です。3つの心理学を折衷的に活用することで、学習のゴールを目指します。それぞれの特徴と、IDへの応用について紹介していただきました。

 

行動分析学は、訓練やトレーニングに最もよく利用され、「運動スキル」の習得に効果を発揮します。新しい行動の獲得には、最小単位のトレーニング(スモールステップ)への分割や、適切なタイミングでの即時フィードバックといった技術が効果的だといいます。加えて、技能と挑戦のバランスの取れた、学習者にとってちょうど難しい課題を出すことも、モチベーションの向上、学習の継続につながるのだそうです。


学習に関する心理学理論のうち、行動分析学について。

認知心理学は、主に学校教育の教授法や学習過程をターゲットに取り入れられており、「認知スキル」の習得に効果的です。人の思考は、刺激によって出力された情報が、思考というプログラムによって処理され、行動として出力されるという、一連の流れとしてモデル化されています。教える側には、この思考をスムーズに行える様にする技術が求められています。具体的な技術として、語呂合わせ、繰り返し学習、スキーマの習得といった技術をご紹介いただきました。また、うまく教えたとしても、学習者が間違うという問題は避けることは出来ません。その間違いの理由を探り、教える技術についてもお話しいただきました。


学習に関する心理学理論のうち、認知心理学について。

状況的学習論は、社会活動の中での学びをターゲットに取り入れられており、「態度スキル」の獲得に効果的です。人は、現実的な条件や制約の中で認知活動を行なっているという立場に立ち、学習者の置かれた社会的状況や他の参加者との関係性に着目します。コミュニティーの中で居場所を獲得する過程での学びや、認知を制約する事象のほか、コーチング、GROWモデルといった技術もご紹介いただきました。


学習に関する心理学理論のうち、状況的学習論について。

 

これからの学びを想像する

地球規模での自然環境の変化、テクノロジーの進歩、少子高齢化など、私たちは変化の激しい社会の中で生きています。教育には、こういった社会の状況に合わせて、教え方・学び方を転換していくことが求められています。コロナ禍でオンライン化が進む今、教育が全てオンライン化したら…と、ブレイクアウトセッションで未来の教育を想像するワークを行いました。ワークの後、杉浦先生がおっしゃっていた「教育は、人が社会で自立していくための支援である」という言葉が印象的でした。教育の先を見据えた学びを意識したいと思います。


ワークの後、受講生に語りかける杉浦先生。

 

おわりに

教えることは、2人以上の間で行われるやりとりと考えれば、コミュニケーションのひとつと捉えることができます。人間関係を築くコミュニケーションの過程と、わかりやすい教え方には、共通する点が多いのだと知りました。講義の最後には、「科学技術コミュニケーションの活動において、IDのどの様な理論や考え方が応用できるか?」と杉浦先生からの問いかけも。先生の著書、Webサイトやご紹介いただいた参考図書も参考に、今後の実践の中で考え続けていきたいと思います。杉浦先生、“教えることを学ぶ機会”をつくっていただき、ありがとうございました。