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「ミニパブリックスを使った「科学技術への市民参加」デザイン」(10/16)三上直之先生 講義レポート

2021.10.29

「ミニ・パブリックスを使った「科学技術への市民参加」のデザイン」(10/16)三上直之先生 講義レポート

木村有歌理(2021年 本科/学生)

はじめに

モジュール3の第5回の授業では、北大高等教育推進機構・准教授である三上直之先生から、科学技術と社会を繋げるミニ・パブリックの可能性やその実践について学びました。

三上先生は環境社会学を専門とされていますが、北大理学院の科学技術コミュニケーションプログラムの教員も兼任されています。そのため市民と科学者の両方の立場を熟知した視点から、市民と科学者のコミュニケーション方法について学びました。

「社会の縮図」を作って話し合うミニ・パブリックス

ミニ・パブリックスとは、社会の縮図となるように無作為に抽出した一般市民を数十人から数百人集め、社会的に論争のあるテーマについて話し合いを行う場のことをいいます。ミニ・パブリックスの参加者として選ばれた市民は、事前に専門家からの講義を受けたり情報資料を読む機会が与えられ、バランスの取れた情報共有を行ったうえで、互いにじっくりと話し合いを行います。

ミニパブリックスの利点は、政府が政策決定をする際や、議会が法律案を作るときに、国民が十分かつ正確な情報を得たうえで熟議したアウトプットを参考に出来るという点です。情報の偏りをなくした上で全ての人が対等に議論を出来るという点が素晴らしく、サイエンスコミュニケーションの他の実践においてもこのような姿勢は応用できると思いました。

ミニ・パブリックスの例1:討論型世論調査と科学技術コミュニケーション

2010年から2013年に討論型世論調査を科学技術コミュニケーションの手法として応用した北大のプロジェクトについて三上先生から説明がありました。講義を受けた後は世論調査と科学技術コミュニケーションの相性の良さに納得出来ましたが、科学技術コミュニケーションに特化したこの企画は当時非常に画期的であったことが窺えました。この討論型世論調査には最大150名の一般市民が参加しBSE問題について白熱した議論を交わしたそうです。議論の前後のアンケート結果を見ると、参加者の理解が深まるに従って参加者の意見が変化していることがわかります。熟議の機会を設けることで、市民の意見がこんなにも大きく変わることは驚きでした。

BSEに対する意見の推移:T1が情報提供前、T2が参加者が情報提供後の会議当日、T3が会議の後

ミニ・パブリックスの例2:気候市民会議

授業の後半では気候変動に関わる政策決定において、ミニ・パブリックスがどのように役立っているのかを学びました。ヨーロッパでは気候変動対策について無作為に抽出された市民が話合いを行う「気候市民会議」が議会や自治体によって正式に開催され、政策決定にも用いられているそうです。議論を行う際には、性別や年齢だけでなく、気候変動を「とても心配している」という人から「全く心配していない」という意見をもつ人まで、全ての意見を持つ人が含まれるように考慮し無作為に市民を抽出します。また、市民に供給される情報に偏りが生じないように、外部の実行委員と気候変動を専門に扱うNPOが連帯して運営しているという点も徹底していて印象的でした。気候市民会議では、市民が自分の日常生活のなかで温室効果ガスを排出してしまうエネルギー消費の問題や、市民の生活に直接関わるような食・農業の問題について議論できる点がとても良いと思いました。


気候変動会議では多岐にわたるテーマについて市民が話し合いを行うが、2.陸上の移動や5.食と農業といったテーマは特に議論が掘り下げられた。

ミニ・パブリックスの効果やメリットについて

科学技術をめぐる複雑な問題について国民・住民全員が集まって議論することはほぼ不可能です。しかし、ミニ・パブリックスを応用することで、「かりに一般の市民がこの種の問題に十分な議論の機会を与えられたら、どんな意見がもとまりそうか」を知る手がかりとなります。そのため、ミニ・パブリックスを通じて得られた市民の意見は政策決定の参照意見として活かすことができ、また市民側も政策形成へと参加できるというメリットがあります。

またミニ・パブリックスのポジティブな効果として、科学技術に親しみのない人たちが集まることで、「素人」目線のフレッシュな意見を反映できます。さらに、参加後の追跡調査から一度ミニ・パブリックスに参加した市民は同じような課題に対しても積極的な態度を見せることもわかっています。


ミニ・パブリックスの主な効果

おわりに

科学技術を市民に理解してもらうことに重きを置いているミニ・パブリックスの実践は、科学技術の社会的影響が大きくなった現代において非常に有効であると感じました。今回、特に印象的だったのは、適切な理解と熟議が市民の意見を動かしうるという点です。これまで、CoSTEPでは科学技術をどのように市民に伝えていくのかを重点的に学んできましたが、それらが実際に人に影響を与え、人の意見を変えるプロセスにまで深く切り込んだ授業は初めてでした。今後、科学技術コミュニケーションを通じて自分が市民に伝えられる知識が、どのような影響力を持ちどのようなプロセスで人の認識を変えるのか、この授業で学んだことをヒントにして考えていきたいと思います。

ミニ・パブリックスの実践では、全ての市民の意見を汲めるわけではありませんが、それでも市民の意見を平等にまとめることを諦めないという強い姿勢が感じられました。このような新しいデモクラシーの領域について丁寧に解説してくださった三上先生、ありがとうございました。