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「実験室から議会へ性的マイノリティ課題解決を目指して~」(12/4)渕上綾子先生 講義レポート

2021.12.10

白井愛美(2021年度 選科/学生)

はじめに

モジュール5の2回目の講義は北海道議会議員の渕上綾子先生による「実験室から議会へ~性的マイノリティの課題解決を目指して~」でした。渕上先生は性的マイノリティの当事者としての目線から、その問題に拘わらず様々な立場の人へ理解を推進するための活動をされています。ある面でマジョリティであった人が他の面ではマイノリティになったり、あることをきっかけにマジョリティ側にいた人がマイノリティになったりと、社会の中での位置は流動的でかつ多面的なものであるため、全員が自分の問題としても捉えるべきだとの話が講義の始めにスタッフからありました。これは今回の授業のテーマに限らず、様々な立場を理解する際に必要な視点だと思います。

議員になるまで

講義内容と切り離すことは出来ないため渕上先生が講義の中でお話してくださったご自身の略歴を少し紹介します。渕上先生は出生時に男性性を割り当てられましたが幼稚園のころから性別に違和感があり、家族や友人に性自認とさらに性的指向も隠して、男性らしい身体になっていくことに困惑しながら学生時代を過ごされました。北海道大学の大学院で研究されたあとは農業試験場で働き始めますが1年ほどで辞め、その後20年弱、すすきのの「ニューハーフ」キャストが在籍するショーパブで働かれました。仕事の性質上長くは働けないため引退後の生活を考えるさいに、不動産投資をされたりその関係で宅建の資格を取得されたりしました。その後先生のショーパブでの経験と不動産に関する知識を生かした相続のセミナーが面白いと偶然話題になり、それを目にした政治家がパブに訪れ渕上先生に出馬を勧めたことが政治の世界に入るきっかけになったそうです。ホルモン投与が家族に知られたときの母親とのやり取りの話もしていただき、当事者の周りがどのように対応・協力すべきかを考える機会にもなりました。

政治家としての取り組み

政治家として渕上先生は特に北海道人権施策推進基本方針の、性的マイノリティに関する項目を追加する改訂に積極的に関わってこられました。これはあらゆる施策の基本となるもので、住宅や教育など様々な局面で性的マイノリティに対する配慮を促すものです。

さらに制服の選択肢や学校でのいじめ、教科書での性的マイノリティの取り扱いなど教育現場での性的マイノリティに関する問題、パートナーシップ制度の改善、問診の性別欄の廃止、GIDクリニックの混雑解消などに取り組まれ、当事者でなければ見えにくいような問題を可視化し、性的マイノリティの人がより暮らしやすい社会になるようにご尽力されています。

LGBTQがいる前提の社会を目指す

渕上先生が目指すのは性的マイノリティの存在を前提とした社会です。実際には少なくはなく、左利きの人の割合と同じくらいの割合で存在すると言われる性的マイノリティではありますが、社会の制度はそもそも少数者をいないものとして扱ってきました。そのためマイノリティを可視化しようとする努力でさえ、マジョリティ側には「権利の主張ばかり」と映ってしまうことがあるようです。それに対して渕上先生は政治家としてプラグマティックな戦略を取ります。性的マイノリティへの理解増進に取り組むことのメリットや取り組まないことでのデメリットを強調することで、市や企業の態度改善を促すというものです。例えばLGBTツーリズムという言葉があるように性的マイノリティをターゲットにした市場などの経済的なメリットがあることや、企業として積極的に取り組まないことによって性的マイノリティに属する顧客や被雇用者とのトラブルが生じやすいこと、優秀な人材を知らぬ間に排除してしまっている可能性があるといったデメリットがあります。もちろん経済的な効果に拘わらず、多様な性のありかたを人権問題として扱うことが大前提になるとは思いますが、渕上先生がおっしゃていたように、実際問題としてマジョリティ側を「味方につけ」て剥奪されてきた権利を取り戻すことが政治においては第一の課題なのだと思いました。
渕上先生ありがとうござました。