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対話day企画2「生き物の運命を握る鍵を手に入れたとき、あなたはどうする?討論劇で問うジーンドライブ是非〜」を開催しました

2022.2.25

去る2022年2月6日(日)、討論劇&評決ワークショップ「生き物の運命を握る鍵を手に入れたとき、あなたはどうする?〜討論劇で問うジーンドライブの是非〜」を開催しました。札幌は前日からの記録的な大雪となり、絶好の(?)オンライン日和。イベントには札幌だけではなく、全国からZoomで15名、YouTubeで25名のご参加をいただきました。本イベントは2021年度対話の場創造実習主催のイベント「対話day」の一環として行われ、石井・逢坂・小笠原・小林・水上を中心として企画・運営を行いました。午前中に行われたイベントの様子は既出の記事をご覧ください。

小笠原明信(2021年度 本科/学生)

〈札幌市資料館にて収録した討論劇を公開します(3/8)〉

〈2月6日に実施した討論劇はZoomを用いたオンラインのリモート演劇、YouTubeLiveで配信を行いました〉
今回のテーマは「ジーンドライブを用いた感染症の原因となる蚊の根絶」

今回の演劇の舞台は今から10数年先の未来、蚊が媒介する感染症の流行により多数の重症者が発生する日本。被害を食い止めるべく利用を検討される新規技術について、肯定側と否定側それぞれの専門家が招集され、その利用の是非について市民法廷が開催されることとなりました。その新規技術とは、ゲノム編集技術 CRISPAR/Cas9を応用したジーンドライブ。

ジーンドライブを用いることで、不妊化した遺伝子を高確率で遺伝させ、病気の原因となる蚊を根絶するべきだとの肯定側の主張から演劇は始まります。

生き物の運命を委ねられた私たち

証人や代理人による質疑応答を通して、ジーンドライブが生態系・他の生物に与える影響やコスト・予算・効果、或いは特定の生物種を絶滅させることに対する倫理的問題と、様々な論点で議論は白熱していきます。そして、肯定側は最後に「科学でよりよい世界をつくろうとする人間の、科学者の態度を信じるべき」と述べます。一方、否定側は「人間は必ず誤る存在で、人間の理性の限界を認めるべき」と主張します。果たして、生き物の運命を委ねられた私たちはどのような態度・行動をとるべきなのでしょうか。陪審員を務める参加者はどのような判断をするのでしょうか。

評決の行方は…

参加者の皆さんは約40分の観劇の後に、陪審員として5班に分かれて評決ワークショップを行いました。各班における議論のゴールは「ジーンドライブを実施するか否か」と、その評決について付帯する条件及びその理由を決めることでした。陪審員の皆さんがそれぞれの立場と理由を述べてから、ゴールに向かって活発に意見を交わし、あっという間の50分に感じられました。私がいた班では「手にした道具は使いたくなる。科学者と市民の溝や、人間の理性をコントロールするためにどうふるまうべきか。」と、もはやYes or Noを超えた議論が進んでいたのがとても印象的です。

〈演劇で役を演じた受講生が評決WSではグループファシリテーターを務めました〉

各班での議論を終え、代表の方には各班の評決及び付帯条件の結果を発表していただきました。結果、ジーンドライブを実施するが1票、実施しないが4票となり、劇中における感染症の原因となっている特定の1種の蚊を根絶するためのジーンドライブの使用は認められない、とする評決が下されました。その中でも「ジーンドライブの研究と実地試験は続けるべき」という付帯条件は数多く挙がりました。

〈それぞれの班の代表が評決を発表しました〉
繋がれてきた命、繋いでいく命

さて、評決も終え、劇はフィナーレへと突入です。肯定側と否定側の証人が学生時代同じ研究室の先輩後輩だったこと、そして、その研究室の仲間を感染症で亡くしていたことが明かされます。それぞれの立場から、新技術に携わりながらも救えなかった、新技術に慎重になるあまりに救えなかったのではないか、という苦悩が描かれます。仲間から譲り受けていたクワガタに、繋ぐ命の重さを感じつつ、劇は幕を下ろしました。

〈フィナーレの様子〉
イベントを通して感じた対話の重要性

ワークショップの際は、「安全か十分にわからない」から「やらないほうがいいのでは」という意見がある程度見受けられました。これは新規技術に対する現代の社会的な考え方が現れているように感じられました。かく言う私も「ジーンドライブ…?」と、パリパリになった高校生物の資料集を開いたのがスタートラインでした。遺伝子工学についてみんなで学び、論点を出し合い整理し、1つの脚本を作り上げていきました。作成段階や本番で感じた、人により違う世界の解像度。各人が持つ背景、経験、感情をベースに生まれる対話はみんなが未来に向かいよりよく生きていくために重要なことだと再認識しました。

〈演劇の台本を制作するために、ジーンドライブについて一から調べ、その是非についてチームの中でディスカッションを行いました〉

今回の本番を迎えるにあたっては、多くの方にご協力いただき実現に至りました。

ご参加いただいた皆様、ポスター作成にご尽力いただいたグラフィックデザイン実習の皆様、会場をお貸しいただいた札幌市資料館の皆様、撮影班の皆様、監修いただいた国際基督教大学の山口富子先生、イベント開催までご協力・お手伝いいただいたCoSTEPの先生方、ありがとうございました。

〈後日、札幌資料館にて教材用に撮影を行いました、完成した動画を公開しました〉

このイベントは、
2019年度科学研究費助成事業「演劇を用いた科学技術コミュニケーション手法の開発と教育効果の評価に関する研究」(課題番号 19K03105)
2020年度公益財団法人日立財団 倉田奨励金「演劇を⽤いた科学技術コミュニケーション⼿法の開発および参与者の先端科学技術の受容態度の変容に関する調査」(共に研究代表者 種村剛)
の助成によって実施された。

対話の場の創造実習「劇団DoSTEP2021」:石井花菜、逢坂はるの、小笠原明信、小林瑞季、水上千春