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ラジオ178回:ノーベル賞受賞記念特別番組(後編)鈴木宮浦クロスカップリングを体験!

2011.1.25

>> Podcast(iTunes で聞く)

> MP3 で放送を聞く ※現在視聴することができません。何卒ご了承ください。

 

●研究室に行ってみよう
北海道大学 山本靖典(やまもと やすのり)助教
鈴木 章(すずき あきら)名誉教授

●セレンディピティ〜科学を変えた瞬間〜
レーウェンフック「世界初、顕微鏡による微生物の発見」

●CoSTEPインフォメーション
CoSTEP制作の「鈴木章〜ノーベル化学賞への道」が全国の書店で発売

◆2010年ノーベル化学賞受賞「鈴木・宮浦クロスカップリング」を実演

今回も、北海道大学・鈴木章先生のノーベル化学賞受賞を記念した特別番組です。ノーベル化学賞を受賞するきっかけとなった研究成果、鈴木ー宮浦クロスカップリングの実験の様子と、10月にインタビューした鈴木章先生からのメッセージをあわせてお届けします。

司会は、いつものCoSTEP6期生、太平佳菜(おおひら かな)さん、石井伸彦(いしいのぶひこ)くん、山口章江(やまぐち あきえ)さんです。

(鈴木章先生へのインタビュー当日)

実験は、鈴木先生の「最後の弟子」でもある、工学研究院有機元素科学研究室の山本靖典(やまもと やすのり)先生に、実演していただきました。

(工学研究院 山本靖典先生)

実験を取材したのは、CoSTEP音声・映像実習班の中塚彩人(なかつか さいと)さんと、太平佳菜さんです。ノーベル化学賞を受賞したきっかけとなった実験ということで、かなり大がかりで難しいのではと構えていましたが、実際に山本先生にやっていただくと、驚くほどシンプルで簡単。まるで料理教室のように、合成反応が起きました。

(実験は驚くほどシンプルでした)

何と何をくっつける(カップリング)実験かというと、有機ホウ素化合物(有機ボロン酸)と、ハロゲン化物(パラブロモ安息香酸)です。有機ホウ素化合物は、空気中や水中でも非常に安定していて、使いやすい試薬です。これまでのクロスカップリング法、例えば、マグネシウム化合物を使う方法では、水に触れたら、その化合物がすぐに分解しまうという欠点がありました。この、空気中や水中でも安定している有機ホウ素化合物を使う点が、鈴木章先生の研究のポイントであり、恩師であるパデュー大学のブラウン博士(1979年ノーベル化学賞受賞)に学んだ手法でもあります。

(試薬の有機ボロン酸(左)とパラブロモ安息香酸(右))

そして、もう一つのポイントが、ホウ素化合物の反応を進めるために、アルカリ(今回の実験では炭酸カリウム)を加えた点です。山本先生によると、当時、実験を担当した宮浦憲夫(みやうら のりお)先生たちは、3年以上の試行錯誤を続けて開発した方法だそうです。成功したときには、生成物だけが100%きれいにできるシンプルな反応だったため、宮浦先生は非常に感動したと後に語っています。

(実験の様子)

そして、この反応の鍵を握るのが、触媒のパラジウム。このパラジウムを、クロスカップリングを行う有機ホウ素化合物とハロゲン化物を溶かした、透明のアルカリ水溶液に加えます。触媒パラジウムを加えた後数分してから、反応はあっという間に始まります。わずか1〜2秒。できた生成物は白く、固い固形物でした。これが、反応によってできた「ビアリル化合物」です。水に溶けないため、析出、つまり固体になって分離してきます。この実験の様子はまた映像としてもCoSTEPのサイトから発信する予定です。

(反応生成物のビアリル化合物)

この固体は、炭素と炭素が結合してできた、新しい有機化合物です。有害な副生成物も殆どありません。このようにして、簡単に新しい物質を生み出すことができるのが、鈴木章先生のクロスカップリング反応です。こうして出来た有機化合物は、医薬、農薬、液晶パネルといった様々なものに応用されます。この実験は、分かりやすくかつ安全なため、中高生が有機合成化学に興味を持ってもらうための実験入門としても、非常に優れていると思いました。

◆鈴木章先生から若い人へのメッセージ

そして鈴木先生から頂いた、若い世代への貴重なメッセージをお届けします。「日本のように資源の無い国では、理科系は非常に大事で、とても面白い世界だということを知ってほしい。そして、望みや希望は、人から与えられるものではなく、自分でつかみとるものだ」。心に響く言葉でした。

(鈴木章先生)

鈴木先生がこれまで努力して築き上げてきた研究は、人類の未来を大きく広げてくれました。私たちも同じ北大で学んでいることに誇りを感じ、これからも頑張っていきたいと思います。

◆セレンディピティ−科学を変えた瞬間−

今回のテーマは1674年、世界で初めて微生物を観察したレーウェンフックについてです。それまで目に見えるものだけしか存在しないと考えられてきた中世ヨーロッパで、彼の発見は、目に見えない生物の世界の存在を示す重要なものでした。

(収録の様子)

脚本担当は、太平佳菜さん。主演はいつもの中塚彩人くん。重要な脇役として、今回もいぶし銀の演技が光った石井伸彦くん。ちょっと暴走気味のレーウェンフックと警官のドタバタ劇は、もちろんフィクション。とはいえ、若干やり過ぎました。。関係者の皆さん(?)今回もすみません!

今回、スウェーデンのノーベル賞授賞式に参加した山本靖典先生から、CoSTEPにノーベル賞のメダルをお土産に頂きました。

(CoSTEP制作の鈴木章先生の本と、ノーベル賞授賞式のお土産を手に)

とはいっても、メダルの中身はチョコレート。ノーベル賞授賞式に参加した人の、定番お土産ということで、収録が終わった後に、さっそくいただきました。お味は?う〜ん、少しビターテイストではありましたが、普通のチョコレートでした。山本先生、ごちそうさまでした!

(メダルチョコ)