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正解はないけど答えはある

2022.3.22
受講のきっかけ

1年前、定年退職を数年後にひかえた57歳でCoSTEPを受講しようと考えた理由は、二つあった。一つは、自分が働く職場において後輩たちに何を残せるのか?もう一つは、これまで林野庁職員として働き、膨らみ続ける森林に対する“愛おしさ”から、このことをより多くの人に伝えることをライフワークとしたい。そのために自分に足りないものは?と、自分に対する可能性を幅広く求めて、本科の受講に挑んだ。

講義と演習

講義からは科学技術コミュニケーターとしての基礎的知識を得ると同時に、自分なりのコミュニケーターの在り方を幾度も考えることができた。また、多種多彩な演習では、すぐに使える様々なスキルの基礎について、インプット→アウトプット→フィードバックという正に実践的演習。特にライティング、プレゼンテーションなどは、自分の職場においてすぐに活用することができた。

ソーシャルデザイン実習

私の本科での実習は「ソーシャルデザイン」。この通称SD実習は、様々な社会課題とその解決について、アートを用いて実践しながら学ぶものだった。この実習生の構成は、大学院生5名と社会人の私1名。担当する奥本先生と朴先生からは、極めて抽象度の高い社会課題のテーマが1年間絶え間なく“満面の笑顔”で告げられる。その度に私たち6人は“混沌”からスタートする。もっとも大きな実習イベントは3つ。ワークショップ、サイエンス・カフェ、展示。いずれのイベントにおいても、最も時間と労力を要したのは、与えられたテーマから企画を決める作業。自分たちは何をやりたいのか?なぜそれをやるのか?だれに届けたいのか?6人それぞれが手探りでおぼろげな答えを発散する。そして収束させていく過程では、具体と抽象を行ったり来たりの繰り返し。ときには連日のオンラインミーティングでお互いの思考を掘り下げた。そして企画が固まると、事前のPRから本番までの全体的なデザインを共有しつつ、個別の作業ではメンバーそれぞれの得意分野や個性を生かし合う。ご協力頂く研究者やアーティストとの打ち合わせは刺激の連続。本番直前では夜中までの制作作業もあった。お二人の先生からは「正解はないけど答えはある」と鼓舞され勇気を頂いた。そして、それぞれの本番では発露するかのように6人なりの答えを導き出した。

(オンライン生配信によるサイエンス・カフェ「たまたまSDGs」 緊張の本番直前風景)
(展示「SAME SAME but DIFFERENT LIFE」@大丸  写真は筆者)
(SDチーム 8人の愉快な仲間たち 展示会場にて)
(修了成果発表は、オンラインによる生配信「ソーシャルデザイン実習とは何だったのか」と題したメンバー6人によるラジオ風トークショー)
1年間の挑戦を終えて

私自身は、40年程前に経験したあの学校祭のような高揚感を味わうことができた。CoSTEPの受講動機のイメージは新たなスキルを得ることだった。しかし、スキルより遥かに大きな“道標”を見つけた。社会課題に突き動かされ、そこにサイエンスが息づくのではないか。多くの人々を巻き込む仕組みをデザインすることを原体験として得ることができた。「正解はないけど答えはある」・・・変化の激しい時代の道標。

もし、今、あなたがCoSTEPの受講について迷っているのなら一言わせてください。

「この挑戦は、痛快ですよ!」

井上 純(2021年度本科:ソーシャルデザイン実習
林野庁 北海道森林管理局職員