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2022CoSTEP修了記念シンポジウム「ひらいて、むすんでサイエンスコミュニケーションはなぜ必要なのか〜」を開催しました

2023.3.15

2023年3月4日、CoSTEP18期の修了式に併せて公開シンポジウム「ひらいて、むすんで 〜サイエンスコミュニケーションはなぜ必要なのか〜」を開催しました。パネリストは、川本思心さん (北海道大学CoSTEP部門長/理学研究院 准教授)、水町衣里さん(大阪大学ELSIセンター /COデザインセンター准教授)、小川達也さん(独立行政法人国立科学博物館主任)、白根純人さん(科学コミュニケーション研究所代表)、パネルディスカッションの司会は、株式会社スペースタイムの高知尾理さんが務めてくれました。CoSTEP受講生と一般参加者、合わせて66名が来場しました。

左から白根さん、小川さん、水町さん、川本さん、高知尾さん

各々の機関が実施するサイエンスコミュニケーション教育

科学技術と社会との間をつなぐサイエンスコミュニケーション、そのつなぎ手となるのがサイエンスコミュニケーターです。2000年代初頭、日本ではサイエンスコミュニケーション、科学技術コミュニケーション、科学コミュニケーションと様々な名称で、全国各地でサイエンスコミュニケーションを担うサイエンスコミュニケーターを養成する講座が立ち上がります。

本シンポジウムではまず、それぞれのパネリストからこれまでのサイエンスコミュニケーターの養成教育の内容について紹介がありました。

まず、北海道大学CoSTEPについて、川本さんから紹介されました。北海道大学の学生だけではなく、学外からも受講生を受け入れることが特徴的なCoSTEPの科学技術コミュニケーター養成プログラム。まるで出島のように北大の組織でありながら、北大以外の組織、人と交流できる場所として、連携していくことが特徴です。現在、科学技術コミュニケーターを社会につなぐオンラインのプラットフォーム、SciBaco.netも立ち上げています。

科学技術コミュニケーター養成プログラムの他にも実践、研究と幅広く活動が展開するCoSTEP

次に、水町さんから大阪大学COデザインセンターが、大学院生向けに提供している「公共圏における科学技術政策」についての紹介がありました。本プログラムは、副専攻として基本的な科学技術政策や科学技術コミュニケーションについて学ぶというもの。特徴は議論を深めることを重視している点。3日間の集中講義では答えの出ない社会的課題について、とことん議論するという科目も用意されています。

阪大ではつなぐ人の実態を共有するセミナーも開催している、と水町さんは語る

国立科学博物館(以下、科博)の小川さんは、科博の提供するサイエンスコミュニケーター養成実践講座とともに、自身が修了した東京大学の科学技術インタープリター養成プログラムについても語ってくれました。科学館という実践の場があることが科博のプログラムの最大の特徴。サイエンスコミュニケーション①では、講師から学んだ後に自身の研究を当日たまたま来た来館者の前に実践します。さらにサイエンスコミュニケーション②では、科博の研究者をゲストにイベントを組み立てます。東大のプログラムは比較的に理論が中心で、一方で科博のプログラムは実践に重きを置いていると、小川さんは二つのプログラムの印象を語ります。

科博のプログラムは、出版した「科学を伝え、社会とつなぐ サイエンスコミュニケーションのはじめかた 」に詳しく掲載されている

JSTに設置された科学コミュニケーションセンターは、対話的な手法によって市民の意見を可視化し、それを政策決定に生かすという調査研究が実施されていました。そこで行われていた調査研究を期間限定で終わらせるのはもったいない、と思い立った白根さんは、合同会社である科学コミュニケーション研究所を立ち上げます。問題解決のためのコミュニケーションの場を創造するアドレス1、コミュニケーションから生まれた声を外部の問題解決に資するアクターに届けていくアドレス2、コミュニケーションの場を外部に開いて娯楽や教養に資するアドレス3と、コミュニケーションを分類しながら事業を展開していく科学コミュニケーション研究所。そのため、クライアントも多様です。一方で、科学コミュニケーションを展開する上では、コミュニケーションを積み重ねるだけになっていないか、コミュニケーションスキルが市民の意見を恣意的に誘導することはないのか、という課題もあると語ります。

科学技術コミュニケーター養成プログラムの立ち上げ期からJSTの職員として携わってきた白根さん

これからのサイエンスコミュニケーション

次に、パネルディスカッションが始まりました。まず高知尾さんから、皆さんはサイエンスコミュニケーターですか?という質問が飛びました。その質問に対する皆さんの回答はばらばら。それにはそれぞれのサイエンスコミュニケーター観の多様性があるかもしれません。

ただ、川本さんから、サイエンスコミュニケーターはつなぎ手ということで裏方になりがちだが、自分たちの存在について伝えていかないとその重要性を理解されない、とジレンマが語られました。

サイエンスコミュニケーターは表に出て科学についてわかりやすく伝える存在として認識されがちですが、様々な関係者をつないだり、後世のために科学と社会の問題を記録する人など、パネリストからはより幅広いサイエンスコミュニケーションの在り方が語られました。

次にサイエンスコミュニケーションは職業なのか、職能なのか、という問いに対し、白根さんはまず職である必要はない、むしろ信念だと考えたほうがいいと語ります。サイエンスコミュニケーションを職業の枠に囲い込まず、活動を再考する必要があるかもしれません。

また、10年後のサイエンスコミュニケーションはどうなっているという問いに、10年前と比較してコラボレーションする相手が拡張したと水町さんは語ります。多分、10年後はさらにつなぐ相手が広がっているだろうと予想します。

最後に、サイエンスコミュニケーションはなぜ必要か、という問いが皆さんに投げかけられました。小川さんは、サイエンスコミュニケーションが必要かどうかというよりも、サイエンスコミュニケーションはせざる得ないと答えます。その時、自分たちの幸福を実現するためのコミュニケーションを軸に考えていきたい、と小川さんは話します。

科学技術と私たちの生活は切っても切り離せません。そこに科学技術がある限り、それをどう活用するのかについては、常に社会全体で考えていく必要があります。その時、サイエンスコミュニケーターはどのような役割でサイエンスコミュニケーションを展開していくのでしょうか。中立な立場で対話を重ねていく、対話を問題解決につなげていく、意思決定のプロセスにコーディネーターとして関わっていく、零れ落ちる意見をすくいあげていく、様々な動きが考えられます。これから自分はどのようなサイエンスコミュニケーションを行っていくのか、修了生には最後に大きな宿題が出されたようでした。

本シンポジウムの詳細は、今後JJSCで公開予定です。