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「専門家じゃない」人が取り組んだ科学技術コミュニケーション

2024.3.21

堀内 まゆみ/2023年度 本科 ソーシャルデザイン実習
北海道大学 博士後期課程3年


私は北海道大学の博士後期課程に所属していますが、同時に社会人でもあり、普段は舞台芸術やダンスの活動及び研究をしています。以前から社会人の知り合いの中に「CoSTEP」の卒業生が多くいたので、その名前はよく知っていましたが、実際にどのようなことが学べるのかは詳しく知りませんでした。博士論文の執筆や、自身がダンスのワークショップやアートプロジェクトを行う中で、科学技術コミュニケーションの手法から学べることがあるのではないかと考えたことが受講のきっかけです。

CoSTEPの内容は、講義・演習・実習で構成されていますが、これに則して振り返ると、まず講義は手放しに面白かったです。普段は触れることのできない、先端の自然科学のお話を聞けたし、まちづくりや事業設計、健康医療に関わるお話は、自分の専門分野にも重なる部分が多く参考になりました。けれども一番は、科学技術コミュニケーションが、個人的問題がきっかけとなって始まることも大いにあると知れたことであり、自身が普段取り組んでいることから科学技術コミュニケーションに繋がる道筋を考える契機となりました。

演習や実習になると、手放しで楽しんでいるだけという訳にはいかず、新たなチャレンジが多くありました。演習では、これまで自分の得意手としてきたタイプのコミュニケーションを一旦手放して、ライティングやデザイン、プレゼンテーションなど、相手やテーマによってどのようにコミュニケーションするのが最も効果的なのか、使い分けていく視点を学びました。

そして実習では、ソーシャル・デザイン班の中で、2つのワークショップと1つの展示に取り組みました。ワークショップは「青写真」の作品制作をしてもらうことを軸に、子ども向けのサイエンスワークショップ「あおしゃしんをつくろう」と、大人向けの「空想植物図鑑」という、ターゲットの異なる2種類の企画を実施しました。いずれも、どこを企画の焦点とするのか掘り下げることによって企画の構造が都度変化し、自身がやっているダンスのワークショップと比べると、目的や企画のたて方がかなり緻密で、深い思考を必要としました。

(ワークショップの焦点をどこにするか、メンバーでたくさん話し合いました)

展示「ななめせんなめせん」では、自分たちが普段住んでいる「北海道」を、外の視点と中の視点から見つめてみることをテーマにしました。大枠は決まるものの、なかなか具体的な内容が決まらない状況を長く経験しましたが、一番決まらなかったのはタイトルで、1ヶ月くらい、タイトルについて話して話して、悩んだ末に、ふと出たアイディアが「ななめせんな めせん」でした。実際の展示には600人を超える来場者に来てもらうことができ、子どもから大人まで、展示を仲立ちにさまざまな人と交流することができました。こちらが投げかける視点によって、来場者から異なる反応が返ってくることがとても新鮮に感じました。

(展示「ななめせんなめせん」では、来場者と北海道にまつわるいろいろなお話をしました)

私自身は自然科学の専門家ではないこともあって、自分から積極的に科学の見地を元にしたような提案はできないと考えていたのですが、「科学と社会の接点」というテーマにもあるように、ダンスや身体表現など、自身の分野の専門性も「科学技術コミュニケーション」にいかせることができました。さまざまな専門性が関わり合うことがわかったのが、私のCoSTEPを通じた学びだったと思います。


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