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モジュール6-3 「エンターテインメント業界の武器としての科学、その意義と価値」(1/10)蛇蔵先生講義レポート

2026.4.8

宮島沙織(2025年度 本科グラフィックデザイン/社会人)

モジュール6「社会における実践」では様々な形でサイエンスコミュニケーションを実践されている方々にご講演いただいています。モジュール6-3の講義では漫画家として活躍される蛇像先生をお招きし、科学という題材をどのようにすれば魅力的に伝えられるのか、という「知識を魅力的に説明する技術」をメインとして、先生の著作や漫画家としての生き方を交え、大きく「金」「技」「心」の3つのテーマについてご講演いただきました。

(漫画家/原作者として関われた作品は、全てアニメ化やドラマ化されています。それぞれの作品の背景には、社会学や科学の視点があります。)

1. 金:科学の知識を武器として生きるということ

まず、蛇像先生のように科学を題材とした漫画作品を製作して生計を立てるということについて、報酬の相場や税金問題などリアルなお話を伺いました。

加えて、科学の知識を活用する仕事として、監修やライターについてご説明いただきました。監修とは、作品を専門的な観点からチェックするほか、アイデアの提供なども行う仕事だそうです。ライターは記事の作成を請け負う仕事ですが、研究者への取材や業界紙などの科学系の記事は、一般的な記事よりも報酬が高く設定されているそうです。

これら漫画家・監修・ライターなど異なる形でも、科学的な知識を扱う際に共通して必要なのが、本講義のメインテーマである「知識を魅力的に説明する技術」です。

(書籍売り上げのうち、著者に還元される割合について、具体的で踏み込んだお話しを伺いました。著者が漫画家と原作者に分かれている場合には、その中でさらに分配が行われます。)

2. 技:物事を魅力的に伝える「変換の型」がある

蛇蔵先生の著作「日本人の知らない日本語」「決してマネしないでください」「天地創造デザイン部」の3作品の題材は全く異なる分野ですが、どの作品でも難しそうな専門知識を「面白さ」に昇華しており、映像化・ベストセラーと成功を収めています。これは、専門知識を魅力的に伝える「説明力」は、特定の分野に特有の「知識」ではなく「変換の型」であるためだといいます。この「変換の型」は題材や手法が変わっても幅広く活用が可能であるそうです。

知識を魅力的に説明するには、エンタメ性と正確性を両立させることが重要だそうです。この2つは一見対立しそうですが、エンタメ性は入り口設計に、正確性の担保は内容に適用することで両立が可能とのこと。正確性の担保は、内容が正しいかを確認することで適用できますが、エンタメ性を適用するというのはどういうことでしょうか?具体的に4つの方法についてご教示いただきました。

  • 読むコストを減らす
  • 魅力的なキャッチ
  • たとえ話の活用
  • 情報を開示する順番を変える

前提として、読者(知識の受け取り手)は深い知識を少ない労力で得ることを求めているそうです。そのため、情報に手軽に到達できるよう、読むコストを下げる工夫が求められます。

まず、読むコストを下げるには、文字数を減らすこと、つまり情報の取捨選択が必要です。理解に必要な前提条件を減らすことも重要です。

加えて、話のゴールが見えない状態も読者に負担を与えるため、タイトルやイントロ、キャッチコピーなどの早い段階で「どこに向かう話か」「何の話であるか」を説明し、読者の離脱を防ぎます。例えば「天地創造デザイン部」では、タイトルから「デザインの話」であること、第1話の冒頭1ページ目で「動物が題材」「お仕事もの」であることなど、内容や視点が伝わる工夫がされています。

専門用語はやさしい言葉で言い換える必要がありますが、ここで読者に最適なたとえ話ができると、読むコストが下がるだけでなく、読者を惹きつける魅力につながります。よいたとえ話をするには、読者のペルソナを想定し、たとえ話の題材が伝わるかを確認することが重要だそうです。

(『決してマネしないでください』のある1コマのセリフ監修エピソードをご紹介いただきました。「近接した測地線が収束する場合がある」がより正確な表現であることを伝えつつ、あえて「交わる」を採用したそうです。)

また、同じ内容でも情報を開示する順番を変えるだけで魅力的になるそうです。意外性や驚きなどの印象的な場面や、人の興味を惹きそうな情報を最初に示すことで、受け手の興味を惹くことができます。

3. 心:仕事を長く続けるためには

まず、ライターや監修などの依頼される仕事では、仕事をこなす技術は前提として、継続して仕事を受けるには「一緒に仕事がしたい」と思われるような人間性が求められるそうです。倫理観を持って仕事をすることも、信頼を得るためには必要です。

また、AIと比較して人間に求められる価値として、情報の責任を担えること、人から情報を引き出す取材力、言葉にできない違和感を見つける着眼点があるのではないか、とお話しいただきました。

最後に、自分の「好き」という気持ちを大切に、途中の失敗は経験として諦めずに夢に向かって欲しい、とエールをいただきました。

(蛇蔵先生に質問する著者(右))

おわりに

蛇像先生の講義では、構成や説明方法にもご教示いただいた技術が詰まっており、本講義自体が科学技術コミュニケーションの一例であったと感じました。

また、講義内容を踏まえて先生の著作を読み返すことで、一つのページ、一つのコマにも細やかな工夫や技術が散りばめられていることが分かりました。大変貴重なお話を聞かせてくださり、本当にありがとうございました。

(連載の最中にもかかわらず、お忙しい合間を縫って来札いただき、本当にありがとうございました!)