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モジュール6-1「大学の先生芸人が伝えるサイエンスコミュニケーションそれほど科学に興味がない人にどのように伝えるのか~」(12/13)ラブ教授先生講義レポート

2026.1.20

宮内 紗久良(2025年度選科B受講生)

CoSTEPでの学びもいよいよ最後のモジュールとなりました。モジュール6では、「社会における実践」として、科学技術コミュニケーションの分野で積極的に実践活動をされている方々からお話を伺います。モジュール6-1の講義では、「大学の先生芸人」という異色の肩書きをお持ちの黒ラブ教授先生をお招きし、科学にあまり関心がない人へ科学を魅力的に伝えるためのポイントと、先生が取り組んでおられる実践内容について伺いました。

吉本興業(大学の先生芸人)の黒ラブ教授先生による講義です。

「大学の先生芸人」って?

学生時代からサイエンスコミュニケーターを志し、特定の専攻にこだわらず幅広い分野を学んでこられた先生。現在は、大学で科学の伝え方に関する研究を進めるかたわら、吉本興業所属のお笑い芸人として日々ステージに立っていらっしゃいます。もともとはお客さんが笑って科学を学べる「科学漫談」を中心としたネタを披露していましたが、最近では企業や国からの依頼で科学実験とお笑いを組み合わせた「実験お笑いワークショップ」を実施する機会も増えているそうです。そのほかにも、テレビなどのメディア出演、本の出版、科学館の特別展のプロデュース、Podcastでの配信など、幅広く実践活動を行っておられます。

先生の実践活動の大きな特徴は、お客さんに「理科嫌い」の人が多いということです。一般的なサイエンスショーは小中学生向けのものが多いのに対し、よしもとの劇場の客層は高校生以上がほとんど。小中学生に比べて理科嫌いな人の割合が増えるため、よりアウェーな環境になります。時にはお客さんから「せっかくお笑いを見に来ているのに、わざわざ勉強の話なんて聞きたくない!」という反応をされることもあったそう。とはいえ、そんなお客さんにも楽しんでもらいたい。そうした思いで、理科嫌いのための科学コンテンツに力を入れていったといいます。

笑いにあふれる講義が続きます。

わかりやすく、魅力的に伝える

「大学の先生芸人」である先生が専門とするのは、科学技術コミュニケーションとお笑い。これらには実は共通点も多いといいます。

例えば、人が笑うまでの過程は、①わかりやすい、②楽しい、③(笑うまでではないが)おもしろい、④笑う、の4つの段階に分けられます。数字が大きいほど技術力が必要であり、日ごろ先生はこの流れに則ってお客さんに笑ってもらえるようにネタを作っているそうです。一方、科学技術コミュニケーションにおいては人を笑わせる必要はなくとも、「わかりやすい」「楽しい」と思わせる技術を身につけることは非常に有効です。そのため、人を笑わせる技術と科学をわかりやすく魅力的に伝える技術は地続きであるといえます。

科学を楽しく伝える方法を学んでいきます。

ではここで、科学の伝え方について考えてみましょう。

研究所の一般公開などで、科学にあまり関心のない人へ自分の研究を説明するとします。この場合、話し手の多くは元々科学に関心がある人なので、科学に関心のない層の気持ちがなかなか想像できません。さらに、人間は自分が苦労して学んだことでも、一度理解してしまえばその記憶を単純化してしまう傾向があります。一度自転車に乗れるようになると、乗れなかった頃のことを思い出せなくなってしまうのと似ていますね。一方で、お客さんはそれほど科学について知りたいと思っていない場合や、興味のないことに頭を使いたくないと思っている場合がほとんどです。そのため、一生懸命科学の魅力を伝えているつもりでも、お客さんには「なんだか難しそう」「自分には無理」というマイナスの感情だけが残ってしまうこともあります。

そのため、科学をわかりやすく魅力的に伝えるには、自分の価値観や感覚だけにとらわれず、まずステークホルダーを知ることが大切です。

もっと知りたい!を軸にする

自然人類学の研究紹介を例に、科学をわかりやすく魅力的に伝える方法について考えてみましょう。まずは、以下の説明を読んでみてください。

自然人類学とは、人骨などから人類について学ぶ学問です。自然人類学は、人骨に残された情報から社会や生活を復元する「生物考古学的な研究」と、集団の起源や系統を追求する「系統学的な研究」の大きく二つの分野に分けることができます。

いかがでしょうか。これは、説明の論理を軸としてストーリーを作った例です。学問を系統立てて説明しており、自然人類学についてすでに知っている人が相手であればこの説明でも十分に伝わるでしょう。しかし、科学に興味のない人にこの説明をしても、研究の魅力はうまく伝わりません。

研究の魅力を伝えるポイントは、伝えたい内容の前に「知りたい!」と思わせること。先ほどのストーリーを、聞き手の感情の変化を軸とて書き換えると、次のようになります。

みなさんは時代劇を見たことがありますか? 江戸時代と聞くと、ちょんまげや悪代官など、色々なイメージが浮かびますね。でも、実際に過去へ行くことはできないのに、どうやって昔の暮らしがわかるのでしょうか。多くの場合、絵や日記などの史料をもとに過去を読み解いていますが、本当に大変な時期だと、忙しかったり疲れていたりして史料があまり残っていません。さらに、当時の当たり前すぎることは史料に書かれておらず、調べることができません。そこで、「自然人類学」という学問で昔の人の骨を調べることで、史料には残っていない過去の出来事を知ることができます。

このように説明してみると、どうでしょうか。先ほどと比べて、少しは自然人類学について興味が湧いてきたのではないでしょうか。このように、結論の前に「知りたい!」と思えるような前フリを作ることで、お客さんに伝わるストーリーを作ることが重要です。

「魅力的に伝える」3か条

さらに、科学は熱いお湯のようなものだと先生は言います。熱いお風呂に慣れるのに時間がかかるように、難しいことを理解するには時間がかかります。そのため、情報を一度に伝えるのではなく、お客さんが理解するためのタイムラグを設けつつ、細切れに伝える必要があります。

また、科学技術コミュニケーションに取り組むうえで直面する課題として、「わかりやすさ」と「正確性」の両立があります。先生の場合は、お客さんに説明を理解してもらうよりも「納得がいく」「腑に落ちる」という満足感を得てもらうことを大切しているそうです。

正確性を維持したまま、お客さんに伝わるように情報量を適切に減らすことがベストですが、結局のところ相手に伝わらなければ意味がありません。そのため、お客さんに満足してもらうため、時には極端に情報を付け足すこともあるといいます。

先生による科学を魅力的に伝えるためのポイントをまとめると以下の通りです。

① 感情を軸に、論理的に
② タイムラグを考えて
③ 伝えたい人によっては正確性を重要視しない

誰かに料理を振る舞うときのように、相手を思いやることが科学技術コミュニケーションにおいて重要だと学びました。

おわりに

講義の中では、実際に「ボルン・オッペンハイマー近似」に関する科学漫談をご披露いただきました。ネタを拝見して筆者が実感したのは、比喩の力の偉大さです。「スーパーコンピューターはよく当たる占い師のようなもの」のように、聞き手が思わず「どういうこと?」と聞きたくなるような意外性のある例えが効果的に使われており、まさに本講義でお話いただいた感情を軸にしたストーリーを展開しておられたのが印象的でした。

すぐに実践したくなるような伝え方のノウハウを詳しくお話いただき、非常に学びの大きい講義となりました。大寒波の札幌を軽快なトークで盛り上げてくださった黒ラブ教授先生に、改めて感謝申し上げます。

黒ラブ教授先生、講義ありがとうございました。