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チラシデザイン:数学のメガネ生物を見てみよう! 数理モデル解き明かす自然界の

2015.12.15

制作者:池田 陽(2015年度本科・農学院修士課程1年)/制作年月:2015年10月

チラシのデザインを担当したのは、本科デザイン実習を専攻している池田 陽さん(2015年度本科・農学院修士課程1年)。池田さんの制作レポートを紹介します。

数理モデルと折り紙

テーマを初めて知った時、思わず頭を抱えました。テーマの中に数学と生物が共存していたからです。思い浮かぶ数学のイメージは無機的、直線、硬い、イメージカラーは寒色系、一方の生物は有機的、曲線、柔らかい、そしてイメージカラーは暖色系。すっかり混乱してしまいました。

秋山先生との初めてのミーティングは、イメージが全く収束しないままの状態で臨みました。先生から研究概要を直接聞き、チラシを手にとった人に「伝えるべきこと」は何かと自問自答しました。そして、「数理モデルの意義」という結論にいたりました。数理モデルによって複雑な生命現象を抽象化し、その本質を明らかにすることができる、その重要性をデザインによって表現しようと決めたのです。

チラシデザインの中心に描かれているものは、ヒトデを折り紙で作った時の展開図になります。複雑な物体を、紙を折りたたむことによって抽象的に表現できる折り紙と、複雑な生命現象を数式によって抽象的に表している数理モデルの間には「抽象化」という共通点があります。この共通点に着目し、折り紙をデザインの中心に据えることにしました。工夫したところは展開図を用いた点です。数学の持つ直線的イメージを表現するには完成形の折り紙ではなく、展開図のほうが適していると考えたのです。

展開図を描く

展開図には、秋山先生の研究対象の一つであるヒトデを採用しました。実際に紙を折って展開図を作成し、それをベースにAdobe Illustratorで線画にしました。ソフトの操作に苦労しましたが、正確な線画を起こすのはまるでパズルを解いているようで、楽しみながら集中して取り組むことができました。

(ヒトデの折り紙の展開図。ここからIllustratorで線画を描き起こします。)

こだわることとデザインしすぎないこと

デザイン実習で学んだことの一つに、細部に至るまでこだわることの重要性があります。タイトル、イラスト、文字情報といった各要素の配色、配置、書体を調和させながら統合するには一つ一つの要素に根拠が必要となります。“神は細部に宿る”という言葉があるように、徹底して細部にこだわり、論理的に考えぬくことがよいデザインへの一歩になるのだそうです。

今回のチラシデザインでは、アウトリーチ活動に熱心な秋山先生の姿勢を、親しみやすい丸みを帯びたフォント、ヒトデを連想させる暖色系の色使いによって表現しました。暖色以外は数学のイメージに合わせ無彩色を用いました。また、デザインには季節感も重要です。橙色は秋を、ヒトデの五角形はやがて来るクリスマスのお星様をイメージしています。

もうひとつの学びは、デザインをしすぎないことです。チラシ制作が始まる少し前、NHKで「ピタゴラスイッチ」や「デザインあ」を手がけている佐藤正和さんの講演を聞く機会に恵まれました。そこで一番印象に残ったのが「デザインのしすぎはよくない」との言葉でした。魅力的なデザインには見る人が想像する余白があり、どこか安心できる雰囲気があるものです。佐藤さんの言葉を聞いてからというもの「デザインしすぎないデザイン」を実践したいと再三再四考えていました。テーマが数学ということもあり、可能な限りシンプル・イズ・ベストなデザインを追求していきました。

チラシ制作を経て、こだわり抜くことと過剰なデザインは必ずしも同じものではないと考えるようになりました。しかし、それと同時にこだわったデザインと適度なデザインを共存させることは非常に困難であり、センスや経験に裏打ちされたバランス感覚が必要であることに気がつきました。多くの人に魅力的だと感じてもらえるデザインとはなにか、まだ明確な答えに到達はしていませんが、その点に気づいただけでも今回のデザインワークは大収穫でした。

(完成稿)

デザインする喜び

サイエンス・カフェ札幌のチラシ制作を担当していると、デザインする喜びに遭遇するシーンが多々ありました。自分で納得できるデザインを完成できたこと、それをゲストの先生やスタッフに理解してもらえたこと、チラシのチカラで多くの方々に興味関心を持ってもらい、当日は来場者で席が埋め尽くされたこと、すべて喜びでした。

カフェの当日、私は受付係として参加しました。受付開始までの一時間、道行く人にチラシを配りました。性別、年齢問わず予想以上に多くの方々がチラシを受け取ってくれました。その結果、会場は来場者であふれんばかりになり、それを目の当たりにした時は思わず感極まってしまいました。また、秋山先生のお話はとても興味深いもので、参加された多くの方が満足されたようです。数理モデル研究の魅力をデザインによって人々に伝える一助となることができたと感じ、その点でも喜びを感じました。これらの喜びの積み重ねが次のデザインワークへとつながる原動力になるのだと思います。

一連の活動を通しての一番の喜びは、自分のチラシが想像を遥かに超える人々に見てもらえたことでした。やった-!!!

ご指導くださった大津珠子先生、村井貴先生、そしてサイエンス・カフェ札幌の関係者のみなさまにはたいへんお世話になりました。ありがとうございました。


(第84回サイエンス・カフェ札幌「数学のメガネで生物を見てみよう!」の会場の様子)