本レポートは2015年度CoSTEP本科デザイン実習の池田陽さん(農学研究院・修士課程1年)が、HBC(北海道放送)の気象キャスター・近藤肇さんを突撃訪問して、伺った内容をまとめたものです。天気予報の現場で長く、「伝える」ことを実践なさってきた近藤さん。そのお話は科学技術コミュニケーションを考える上で、たいへん参考になる内容でした。
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3月3日ひな祭りの夕方、報道番組中の天気予報に出演する近藤肇さんを見学するため、ぼたん雪のちらつく赤レンガテラスに向かいました。そこには機材などの点検をするスタッフの方々が10名ほど、そして近藤さんがいらっしゃいました。近藤さんはピンマイクの調整をしてもらう傍ら何度もセリフの確認をしていました。
(天気予報の本番中の現場)
いよいよ本番が始まると、スタジオから届くアナウンサーの呼び掛けに合わせて近藤さんが喋り出します。視聴者に違和感を抱かせないよう、スタジオと現場でセリフのタイミングを合わせるため、アシスタントディレクターのハンドサインに合わせ秒刻みでセリフの長さを調整している姿に目を引かれました。これを見て、天気予報一つ取っても、視聴者に「伝わる」ものにするために様々な工夫が凝らされているのだと気づきました。
(ディレクターの梅野さんと一緒に)
そこで、天気予報をより「伝わる」ものにするため、スタッフの方々はどのようなことに気を使っているのか疑問に思い、ディレクターの梅野さんにお話を伺いました。梅野さんは、その日のお天気に合う画面構成を考え、見やすい画面にするためフリップの角度にまで気を使うそうです。
本番終了後、近藤さんにHBC本社のスタジオ、ウェザーセンターを案内してもらいながら「伝える」仕事とはどのようなものなのか伺いました。HBCは気象庁から許可を得て独自の天気予報を行っています(北海道の中で、許可を得ているのはHBCとHTBのみ。ただし2016年現在、HTBは独自の天気予報を行っていない)。その本丸ともいえるウェザーセンターでは、視聴者にいち早くより正確な気象予報を伝えるため、気象予報士の方々が働いていらっしゃいます。気象庁から送られてきた天気図や気象協会、第三セクターの気象情報を元に、刻々と変化するその後の天気を予測し、天気予報に反映しているそうです。
(HBC内のウェザーセンターで、近藤さんに取材)
近藤さんはこの独自予報の内容を視聴者にわかりやすく「伝える」ことに、つまり、「伝わる」予報にすることに心血を注いでいます。「伝わる」ものにするためには、数ある情報の中から視聴者の欲しい情報を取捨選択する必要があります。近藤さんは、3月1日の風速32.6メートルの猛吹雪を平成16年の台風18号以来の風速と表したそうです。この台風は北海道民によく知られており、北海道大学ではポプラ並木が倒れる被害に見舞われました。近藤さんは「伝わる」天気予報にするため、このように、見る人の身近な話題と結びつける工夫を施しているのです。
今回の訪問は、天気予報を見る目もコミュニケーションに対する姿勢も変わる大変貴重な機会でした。「伝える」仕事で重要なことは、受け手のことを想像し、思いやった行動をすることだと気づきました。そのような仕事は受け手にしっかりと「伝わる」ものになるのだと思います。科学技術コミュニケーションやその他のコミュニケーションにおいても受け手のことを考えたコミュニケーションを心がけていかなければならないと感じました。