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「科学技術コミュニケーションってなんだ?」5/14 川本思心先生の講義レポート

2017.6.13

山本 晶絵(2017年度 本科/学生)

 2017年度最初の講師は川本思心先生(CoSTEP部門長/理学研究院准教授)。これから始まる学びの第一歩として、科学技術コミュニケーションの歴史と現状、課題を概観します。

科学技術コミュニケーション(コミュニケーター)とは何(誰)か?

 科学技術コミュニケーションには、実は明確な定義がありません。様々な研究者がそれぞれの視点で独自の見解を示しているのが現状です。

CoSTEPにおいては「科学技術の専門家と一般市民との間で、科学技術をめぐる社会的諸課題について双方向的なコミュニケーションを確立する人材」を科学技術コミュニケーターとしています。

なぜ科学技術コミュニケーションがうまれたのか?

 「科学や技術が『専門家』だけのものではなくなった」ことが大きな理由です。科学技術が発達し、人々により密着したものとなったことで、科学と社会の相互作用によって生じる問題、専門家の科学的知見だけでは解決できない問題が現れるようになりました。

 また、「民主体制にもとづく、市民による国家や科学のガバナンス(統治)」としての側面もあります。裁判員制度やインフォームド・コンセントと同様に、科学技術の領域においても対話・参加型の市民の関与が目指されるようになりました。

日本の状況と課題:海外からの導入と普及

 イギリスではBSE問題を機に、科学者と国民の関係のあり方が大きく変わりました。1998年に始まった「カフェ・シアンティフィック(科学者と国民の対話の場)」は、科学技術について国民が疑問や不安を議論できる場、科学者が信頼回復を目指す場として『科学技術白書』(文部科学省2004)で取り上げられ、以降、日本各地でもサイエンスカフェが開催されるようになります。国策として科学技術コミュニケーターの養成が目指され、CoSTEPの前身である「科学技術コミュニケーター養成ユニット」も、この潮流のなかで設立されました。

 このように急速に広がってきた科学技術コミュニケーションですが、専門家の抱く市民像と市民が持つ懸念とのギャップ、市民の意識の多様性、人材育成の比重の大きさなど、様々な課題を抱えています。また、「興味のある人が中心になりがち」というそもそもの問題もありました。

最後に:科学技術コミュニケーションとは?

 日本においては2011年の東日本大震災、特に福島第一原発の事故以来、科学者への信頼が低下しています。科学者の「役立たず論」が顕在化し、科学技術コミュニケーションのあり方が改めて問われています。

講義は「科学技術コミュニケーションとは〔  〕」というスライドで終わります。受講生はそれぞれの考える「科学技術コミュニケーション」を空欄に書き入れました。

 科学技術コミュニケーターにとって、「科学技術コミュニケーションとは何か?」という大きな問いと、それに対する自分の答えを持っていることは、とても重要なのだと思います。一年の学びを経て〔   〕の中がどう変わるのか(あるいは変わらないのか)、私自身とても楽しみです。