成田真由美(2018年度 本科/社会人)
モジュール1科学技術コミュニケーション概論の最終回、西條美紀先生(東京工業大学 環境・社会理工学院)による「なぜ人はわかりあえないのか。で、どうする?」の講義では、社会問題と科学技術コミュニケーションを考えました。
人はもともとわかり合えない
どうして、人はわかりあえないのか?に対する答えは明快でした。発言内容の意味は聞き手が決めるので、話し手の伝えたいことがそのまま聞き手に伝わることがない。だから、齟齬が生まれ、わかり合えないということ。
発言内容の意味や意義は、話し手と聞き手が相互に構築するものであり、これがコミュニケーションです。そのため、双方向の発信と受信を繰り返す共同構築モデルが、理解を目指すコミュニケーション体系であるというお話しでした。文脈(発言を含む状況全てを指す:場の参加者の属性なども含む)を共有することがコミュニケーションの基本構造とのことです。
ここで、わかりあえない体験をより具体的に共有するために、受講生が2,3人のグループとなり情報交換。その後に全体共有では、数グループが話し合った内容を板書しました。それを、西條先生が「横串を通します」と、文脈を共有していないことが表れた部分、例えば異業種間での大切にしている事柄や国や民族的な常識と呼ばれるものなどをピックアップしていきました。
(それぞれ話し合った分かり合えない経験を黒板に書きだします。)
コミュニケーションデザインで進む
さて私たちはわかり合えない、そのことが充分に理解できたうえで、様々な問題解決にあたらなくてはなりません。文脈を共有しない間柄でも、共通の目的を持てれば協働できるサイクルを構築することはできます。このサイクルでの最重要ポイントは「目的」の共有です。そして、目的・計画・実践・考察を一気通貫で考える必要があります。
問題解決のためには、専門分野を超えて協働する必要性があり、そのためのコミュニケーションデザインが必要となります。
社会問題に科学技術でコミットする
先進国が抱える問題に高齢化社会の到来がある。「老い」は、老いたものにしか分からないことかもしれません。そんな高齢化社会には、食事介助という問題もあります。虚弱な高齢者の食事介助の現状は、介助する側にとっての負担、介助される側にとっては自立した食事が保たれず、食事の時間は両者にとって楽しい時間ではありません。この状況を分析して、科学技術で補完するひとつの事例として、人生のための食事プロジェクト:食事介助ロボット(Bestic)を使った研究が紹介されました。
ただし、テクノロジー&サービスだけでは越えられない、コミュニケーションのジレンマ(わかり合えなさ)があると西條先生は指摘します。やはり、最後は「で、どうする?」で締めくくられるわけです。
「で、どうする?」という大きな問いに対する答えに、1歩でも近づけるよう考え、行動しなければと襟を正す思いで受講しました。西條先生、ありがとうございました。
なお、講義後のワークショップでは、食事介助ロボットの在り方について考えました。私はロボットに介助された食事とは、ロボットだけに任され独り寂しく食事をする高齢者の姿を想像していましたが、高齢者が他の家族と同様に自立的に食事をする製造元のイメージビデオを見て、食事介助が単に物理的な介助の範囲にとどまらず、コミュニケーションの空間をデザインする機能もあるのだということが分かり、自分の視野の狭さに気付かされました。