2019年3月29日、京都市北区の総合地球環境学研究所で開催された博物館・展示を活用した最先端研究の可視化・高度化事業「バーチャルリアリティによる体験と可視化」にて、スタッフの早岡英介が、2017年度本科メディアデザイン実習の活動「没入!バーチャル支笏湖ワールド」について発表しました。
本講演会とワークショップは、同研究所のサニテーションプロジェクト(リーダー:山内太郎 総合地球環境学研究所/北海道大学保健科学研究院 教授)の主催で第6回 Visualization研究会として実施されました。会場ではCoSTEPの「没入!バーチャル支笏湖ワールド」及び「アニマルめがねラボ 〜VRで生き物の視覚を考えよう〜」と秋田大学の「体験型鉱山研修VR」、また地球研上空をドローンで全天球撮影したVR映像を体験できるコーナーの出展もありました。
科学技術コミュニケーションにおいても、VR(仮想現実 Virtual Reality)、AR(拡張現実 Augmented Reality)、MR(複合現実 Mixed Reality)は、有効なツールとして注目を浴びています。今回は、2018年に東京大学に新たに設置されたバーチャルリアリティ教育研究センター・専任教員の青山一真先生から、こうした技術の歴史や特徴についてお話がありました。また青山先生が進める筋肉への電気刺激で生まれる擬似感覚を利用する研究からは、単なるゴーグルを使ったVRだけではない様々な応用可能性を感じることができました。
続いてCoSTEPの早岡から、北海道の支笏湖で受講生たちとダイビングをして水中の地形や生物環境を全天球カメラで撮影し、それをもとにVR映像を制作し環境教育に応用した事例について話しました。「没入!バーチャル支笏湖ワールド」は札幌クリエイティブコンベンション“NoMaps”で2017年10月15日に実施され、2018年1月に朝日新聞社主催の「朝日VRアワード」自然部門賞を受賞しています。
8月でも20℃という低水温、水底の地形は急峻で平均水深は260m以上にも達する支笏湖の内部を実際に潜って観察するのは困難です。VRを使った疑似潜水体験による環境教育への新たな可能性を示すとともに、見つけた生物や地形のシールを貼るアクティビティや、クイズといったワークショップと組み合わせることで、さらなる発展にもつながることを示しました。
会場からは、地形を理解させる、生物を見つける、外来種の危険性を訴えるといった目標設定と、そうした目的に沿った映像編集が、VRの可能性を狭めていないかという問題提起がありました。
ドローンによる上空の景色や、湖や海中の景観をありのままに見てもらうことで、体験者にどのような気付きがあるのか、どこに注目するのかをそのまま観察・調査することも興味深いのではという提案も出されるなど、有意義なディスカッションにつながりました。
また2018年度にメディアデザイン実習(担当:村井貴)が実施した“No Maps2018”出展企画「アニマルめがねラボ 〜VRで生き物の視覚を考えよう〜」の活動も紹介し、イヌ、ネコ、ヤモリ、カエル、カメといった生き物が見ている世界を再現したVR映像を来場者に体験してもらいました。
最後に秋田大学の川村洋平先生から、国内で唯一、金属鉱山の坑内掘り、石灰石鉱山の露天掘りなどをVRで体験することができる体験型鉱山研修を行っている実践例について話がありました。VRによる教育効果はまだ検証が必要だが、興味関心を引き出すことには寄与しているという調査結果を報告してくださいました。
VRというコンテンツが科学技術コミュニケーションにおいてどのような可能性を引き出していくのか、設計や制作といった具体的な内容だけでなく、ワークショップや教育・研究への活用方法など、新しい学びに満ちた有意義な研究会となりました。